火事になった時に、避難が始まった。私は園子ちゃんと蘭ちゃんに挟まれて歩いていたんだけど、避難する人たちが多くて少しだけ離れてしまった
それでも私から二人は見えているから、わざわざ騒ぎ立てる事でもないと思って歩いていたら、ホールで一人立ち尽くしている男の人を見つけた

「行きましょう?」

私が話しかけると、男の人がこっちを見てくる

「妊婦?」

「え、わかるんですか?」

「太ってる人と妊婦の差くらいつきますよ。巻き込んでしまってすみません、避難してください」

「一緒に行きましょうか、萩原さん」

「え、なんで名前…あぁネームプレートか」

「大好きな苗字だから、さっきレジしてもらった時に見ていて、覚えたんですよ」

「驚いた…」

「行こう」

私が腕を掴んで引っ張ると、何の抵抗もなく少しずつ足を前に出し始めた。歩いている間に彼は「仕事が辛い」と言ってきたので「やめればいい」と返事をして、「次を探すのが面倒だ」と言われたら「じゃあやめなければいい」と言った。結局の所好きにすればいいと思うんだけど…

「でも放火したし、これで誰かが死んだら…」

と呟いてきたので

「じゃあ自分殺しちゃダメですね」って言ったら、ゆっくりだった足が速くなって
私の頭の上に上着をかけてくれた。そのまま誘導されていったのだが、私が腕を離さないせいで、どっちが連れてきたのかわからなくなる。外に出た瞬間に上着が取られて私は何事もなかったかのように外の空気を吸い込んだ

安室さんに頬を勢いよく叩かれた感じに挟まれた時は、本当に驚いた
驚いたんだけど、その後私を見る彼の表情を見たら、ごめんなさいとしか言えなくなった
怖い思いをさせた。彼を残して死ぬ気はないんだけど、彼から見たらすぐに避難しなかった私を許せないだろう
それでも私は、新一くんにも蘭ちゃんにも…降谷さんにも、彼らと並んでいて恥じない自分でいたい。私じゃなくても蘭ちゃんたちでも同じ事をしただろうし、彼らなんて絶対に見捨てないだろう
それなのに、自分だけ逃げるなんて絶対嫌

彼が抱きしめてきて、その肩が少しだけ震えていたから、本当に反省した。何度かお腹がぎゅーっとなるので彼の胸に額を寄せたら、その行動だけでお腹が張っているのがわかってくれたらしく、抱き上げられた。素直に甘える事にして、車のほうまで運んでもらい、園子ちゃんちに向かった
彼に手を振って園子ちゃんの大きな家に向かい、そして今日泊まる部屋に案内された。とは言っても、寝るまでのんびりするために三人でいられる三人部屋だけど

夜ご飯は妊婦に良い、葉酸とかビタミンとか…色々入った料理に熱すぎない気持ちのいいお風呂。そしてびっくりな事に何かあった時のために、とか言って昔産婦人科で働いていたベテランの助産師まで呼んでいてくれた。今はその人は歳だから個人でやっているらしい

プレゼントにもらったパジャマは妊婦さん用の足首まであるワンピースで、お腹周りがぽかぽかするやつ。しかもパットつきっていう楽チンな感じ
それを着て女子トークが開始されてしまったので、二人のは笑って聞いていた
でももちろん、順番は私に回ってくるわけで

「ねぇねぇ、男の子か女の子かわかってるんですか?」

「ううん、まだだよ〜。でも産まれるまで聞かないでおこうかな」

「楽しみですね」

こんな話しなら全然いいんだけど、それだけじゃ終わらないのが女子トーク

「安室さんって叩いたりするのね」

「よっぽどなまえさんが大事なんだな〜って思ったよ」

「叩かれては…ないと思うけど…」


その後、園子ちゃんの理想のプロポーズとか、よくある高校生のキスのシチュエーションだとか、とりあえず蘭ちゃんと園子ちゃんが絡んでいるのを見たり、私も巻き込まれたりして笑いすぎたらお腹が張ったりして時間が過ぎていった

次の日のお昼ごろにさようならをして帰った。自宅まで送ると言われたんだけど、送ってもらうわけにもいかないので蘭ちゃんの家でおろしてもらい、そこから歩いて家に帰った。昨日は園子ちゃんの家にいて、楽しかったのに、今はシンとしている家の中
寂しいことこの上ない。そして一緒に生活しているはずなのに、彼の匂いはまったく薄まってなくて、彼の匂いしかしないこの部屋がとても寂しく思える

月曜は祝日だから、のんびり片付けをして掃除をして…今日も多分帰ってこないだろうから夕飯の準備まで終わらせた。
そしてベッドに行って少しだけお昼ねしようと思い、彼の枕を抱きしめながら眠った




8/27
<< >>
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -