静寂の中、真っ白な雪がはらはらと灰色の空からこぼれ落ちる。
花びらのようにも、羽のようにも見える小さな氷の集まり。

淡く、美しいそれを手に乗せると低いと言われる自分の体温でもすぐに溶けてしまった。

もう春になるというのに、珍しい。

きっと積もることはないだろうが逆にそれも良いかとイヴェールは納得する。
開いた窓から冷たい風と共に真っ暗な部屋に真っ白な雪が入ってくる。白と黒のコントラストにふっと唇が弧を描いた。

と、静寂に板の軋む音が響く。顔を上げると暗闇でも分かる銀色の髪が目に入った。

冷たい風で起こしてしまったかと苦笑してきょとんとする彼に笑いかけると、つられてローランサンも微笑む。
ごそごそと今まで寝ていたベッドから這い出すと夜風が身に染みた。


「どうしたんだ?」

「サン、雪だよ」

「へぇー雪かぁ。この時期になんて珍しいな…」


窓の外を眺めながらイヴェールの横にローランサンが座る。少し薄着のようで寒いのか肩を震わせていた。


「風邪ひくぞ?」

「これはこっちの台詞だっての」


雪を手に乗せながら笑うと軽く頭を小突かれる。べしっと鈍い音とうげっと妙な声がしてローランサンが噴き出す。


「痛い。ってか笑うなよ!」

「あぁ、ごめんつい…」

「………」

「イヴェール…」


「ごめんって」とふてくされるイヴェールに言うも完全に聞く気がないようで外を向き、ただ降り続く雪を眺めている。

ふわり、と小さな雪がローランサンの手にも乗りじんわりと溶けていった。ひんやりとしてして真っ白なその雪に隣に座るイヴェールを見た。
いつも思うがやはりイヴェールは雪のようだ。真っ白で儚くて綺麗で…目を離したらすぐに溶けてしまいそうな。そう、敢えて言うならば雪の花のような。


「あ…」


突然、イヴェールが小さく呟いた。見ていたのが気づかれたかと一瞬身構えたが、彼の後ろ広がる空から白い雪がないことに気付いて同じように呟く。
降りやんでしまった雪はやはり積もっていなくて、さっきよりも暖かい風が部屋に吹いた。
寒い冬だった外は一瞬で暖かい春に変わってしまったようだ。

春になれば雪は溶ける。当たり前のことだ。だが、一緒にイヴェールも溶けてしまいそうでローランサンはイヴェールを抱き締めた。
自分より華奢な肩がびくりと揺れる。それでも振り返らない彼を更にきつく抱き締めた。イヴェールが雪でないのは勿論知っている。でも、それでもいつかは溶けてしまいそうで。


「イヴェール…」

「……」

「好きだよ」

「!?」

「大好き」


抱き締めたままで呟くと、イヴェールが息を呑んだ。驚く程早く振り返ったイヴェールは真っ赤で安心する。


「な、何をいきなり…!」

「…何でもない。ただそう思っただけだから」

「ローランサン?どうしたんだよ?」


さっきまでの冷たさが嘘のように暖かい。ローランサンはイヴェールに微笑んで、もう一度「大好き」と呟いた。

腕の中にある雪のような花は溶けない。当たり前のそれが嬉しくて。

するとイヴェールがもぞもぞと動いて向かい合う形に変わる。ローランサンがきょとんとしていると赤い顔を更に赤くして、


「……俺も大好きだよ!」


そう怒鳴るように良いながら腕に飛び込んできた彼に思わずキスをした。











儚くて綺麗で何よりも大切な


腕の中のの花



 
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