切り立った崖の縁に腰を下ろし、夜風にあたる。動いていないと身が縮こりそうほど冷たい風の中に、うっすらと潮の香りがし海が近くにあるのか、と溜め息をついた。

長い旅路。いつ終焉を迎えるのか分からない旅路。終わらないのかもしれない旅路。

あぁ、もう幾つになるのだろう。


野を走り山を越え海を渡り…たった一人の片割れを探す旅路。




ふと空を見上げると目一杯に星屑と月が映る。
幼い頃、大切な片割れと見た空と変わらない美しい夜空。そんな空を見て手を伸ばす。




空を見るのは昔から好きではなかった。


光のない筈の闇がこんなにも明るいのはあの夜空に瞬く星屑たちと、丸く美しいあの月のおかげだと思うと自分の運命がどれほど一瞬なものかと気づかされる。
そしてその一瞬も、抗った筈の運命に抗えないのだと知ってしまうから。




空を見るのは昔から好きだった。


広く自由な空を飛ぶ鳥達が羨ましくて、そんな鳥が飛べる自由な空に憧れていた。
夜空に浮かぶ大きな月と水面に揺らぐ水月が好きだった。いつかは2人で水月を手に入れられると必死に手を伸ばして。




手を上に伸ばしてみる。月に翳せば簡単に手の中に隠れた。
開いても何も掴めていない。解りきっていることだ。けれど幾度も繰り返す。

昔のように。



あれから自分は大きくなった。強くなった。父様や母様、親友、愛しい片割れに護られるだけだった自分はもういないのだ。

否、そんな自分はいらないのだ。


護るために、強くなった。


喪ってしまったものは二度と手に入れることは出来ない。
だから、喪ってしまう前に護るのだ。



「待っててね、ミーシャ…」



絶対に俺が守るから。


一筋の流星が星屑の中を駆ける。

青年はその流星に微笑みを返し、海へと続く道を歩き出す。

空に浮かぶ星屑と再び吹いた夜風が青年の脚を運び行く。その青年の背中を月が優しく照らしていた。









君に会うために、




を見上げる












されど、運命は残酷な未来しか見せてはくれやしないのだ。


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