どっちもどっち





それは何時も通り、母さんの作った夕飯を食べて少しまったりして、父さんから言い付けられた宿題をこなしていた時の事だった。なんの脈絡も無しに、爆弾が落とされたのは。

「そういえば今日十時から断水って言ってたの。母さんも早く入っちゃうから、ナマエも早めにお風呂入るのよ?」
「え。…あ、うん」

え?そんな大事なこと今言う?そういうのって俺が帰って来た時とかに言ってくれないの?

いや、確かに今の俺は子供で、子供に断水だからねー。と言っても納得以前に理解も出来ないとは思うんですけどね。それでも一言くらい欲しかったと思うのは、中身が大人だという精一杯の矜持か。…にしても、この母さん、普段父さんより強いくせに何処か抜けてると思います。

だけど今はまだ八時半を少し回った所。居間でテキストを広げていた俺は、九時まで母さんが風呂に入ったとして残り一時間あるからと、特に深刻に構えなかった。父さんは仕事から帰って来てすぐに入るし、何より今日は兄さんが任務でいない。残り一時間半で二人入るのは楽勝だよね。

ちなみに、兄さんは里の外まで護衛任務らしく明日まで帰って来ません。この安堵感が諸君に分かるだろうか。いつも何かしら理由を付けて一緒に入浴したがる兄を躱す大変さが。

それが、今日は、ない!

別に兄さんは嫌いじゃないよ。いや本当に。ただ少し将来が心配なだけで。だから久々にゆっくり出来るなー…って位にしか思ってませんでした。この時は。…あれ、これフラグか?

なんて一人で暗雲漂わせていると、いつの間に時が過ぎていたのか居間の時計が九時を知らせた。そろそろ母さんが出てくるだろうと、ろくに進まなかったテキストを抱え着替えを取りに部屋に戻る。

変なフラグを建てそうになったが、良く良く考えれば兄さんは今里の外で、どう頑張ってもこのフラグを回収する事は不可能。…不可能、だよね?





ちゃぷん、と其処らの家よりは広めだろう浴室に、蛇口から漏れた水が湯船に波紋を描く音が響く。…初めて風呂に入った時は結構な広さに驚きましたとも。前世アパート暮らしだった俺には考えられない広さだ。これが家柄の違いってやつか…と、少し切なくなったのを覚えてます。

いい加減この広さには慣れましたが、未だに慣れないのは広い湯船の真ん中に堂々と居座る事。だから俺は毎日、だだっ広い湯船の端に鎮座しています。

しかし風呂はどこの世界でも気持ちいいものです。はい。最初に体洗うのとか全部終わらせて、逆上せる間際まで湯船でゆったりするのが俺のスタイル!…要らん情報でしたね、すみません。

でも、本当にちょうどいい湯加減で疲れが癒える。見た目子供でも、何とも言えない親父臭さ…。

「ナマエ、入るぞ」
「あ、うん。………うん?」

…え?なんか、今聞こえた?

固まる俺を余所にからからと引き戸式のレールが音を立て、兄さんが現れた。

……兄さんが、現れた。

「……」
「どうした?」

……いや、いやいやいや…。どうした?は此方の台詞ですよね?あの……うん。何て言うか、言葉が出ない。ってか任務、任務どうしたよ。

「予想より早く任務が終わって、さっき帰って来たんだ」
「明日までかかるって聞いてたんだけど」
「行きは依頼人を走らせて帰りは不眠不休で走れば、どうって事ないさ」
「どうって事ないのはお前だけだよ」

依頼人さん…。わざわざ金払ってまで護衛を雇ったのに、その護衛に走らされるなんて…いけない、涙が零れそうだ…。ついでに班員の人も大丈夫か。兄さんの無茶に付き合わされて可哀想に…。そんな俺のツッコミも虚しく兄さんはかけ湯の後、湯船へ体を沈めた。こいつ…いや、もう何も言うまいよ。

てか体洗ってから入れよ。俺そういうの気になるタイプだから。…細かい?細かくないよ!汚いまま湯船に入る神経を疑ってるだけだよ!

「…うん、じゃあ俺先に上がるから」

後はごゆっくりー、なノリで湯船から片足を出した、が、既の所で手を掴まれる。大袈裟に肩が揺れたのは気のせいです。別にびびってません。

が、今兄さんの方を向くのは宜しくないと本能的な、シックスセンス的なものが叫んでいる…!

「背中流し合いしたい」

ですよねー!そういう流れだと思いましたよ俺も!

止めてよ兄さんと背中の流し合いとか、っていうか裸の付き合いすら避けて通りたかったってのにこの兄は…!別に他人に裸を見られるのが嫌とか、そんな女々しい事は言わないけども!なんか兄さんが相手だと洒落にならないと言うか、なんか…自意識過剰だけど身の危険を感じると言うか…!

いや、女の子だって、いくら彼氏とはいえ自分の家の風呂に二人で入らないだろ…!…あの、ちょ、例えを間違えた気がするけど、つまり、少なからず好意を持ってくれてる相手と風呂には入りませんよね!

「俺もう体洗ったし」
「なら頭でいい」
「頭も洗った」
「なら歯磨き」
「無差別か!」

歯磨き手伝って貰うとか!俺はそんなに子供じゃねぇよ馬ー鹿!てか湯冷めするからいい加減手離せ!…すみません、取り乱しました。

冷静に考えればそれは風呂場でしなくてもいいと思い付くのに、兄さんをどう切り抜けたものか…と大分テンパっていたらしい俺は気付かなかった。精神年齢三十路でも、俺には状況判断力と冷静さが足りないらしい。…でもさ、実の兄の奇行なんて身内が一番辛いと思うんだ。精神的に。…母さんはそうでも無さそうだけどさ。

「ちょ、とりあえず手を離そうか」
「だが断る」
「断るを断る」
「断るを断るのを断る」
「断るを断るのを断るは、こ……どうでもいいから離そうよ」

断る断る連呼されて断るがゲシュタルト崩壊してきた。自分でも何言ってるか分からなくなったので、掴まれた腕をぷらぷら揺らしてせめてもの抵抗。頭悪くてごめんね!

「…ならせめて一緒に100まで数えよう」

なにそれちょっと可愛、げふんげふん。…い、今のは兄さんが悪い。普段が変態的だから、たまにまともな事言われると年相応で可愛いって思って、…なんかないけどね!

…こほん。まあ、背中の流し合いとかする位なら100まで数えるなんて造作もない事だし、と再び湯船に浸かりながら、精神年齢が兄さんより上な俺が折れてあげる事にした。…逃走防止にか手は掴まれたままだったが、100くらい直ぐに数え終わるだろうと放置して数え始めた。

…のだが、

「よーん、ごー、ろーく、」
「に」
「にー、さーん、…に?……なーな、はーち」
「さん」
「さー……はーち、きゅー」
「いち」
「おい」

こいつ100まで数えさせる気がないな…!

いざカウントし始めると、まだ10にも満たないのに横からの妨害工作が激しい。というか、やり方が大人気ない…!大人気ない上にそのどやぁ…って顔止めて欲しい。湯船に沈めたくなる。

苛々しつつ、俺は考えた。兄さんから妨害されるなら、兄さんにカウントさせた方がお利口じゃないか、と。それを兄さんに提案すると、渋られるかと思いきや意外とすんなり受け入れられた。…ちょっと気味が悪いが、反省してくれたなら…

「いー…………ち」
「…」
「にー…………い」
「…」
「さー…………ん」
「逆上さす気か!」

この愚兄!と今までの腹いせに、お湯の中で動き難いのを堪えつつ兄さんの足に自分の足を引っ掛けて前方に払えば、気が抜けていたのか何なのか、兄さんは勢い良く仰向けに湯船に消えた。ばしゃーん、と反動でお湯が飛び散る。

ふ、ふはははは!ざまあ!

と思った直後、兄さんに手を掴まれたままだった俺も引きずり込まれる様に湯船に飛び込んでしまった。…何これ俺かっこ悪い。しかも、いつまで経っても風呂から上がらない俺達を心配して様子を見に来た母さんに「お風呂場で遊ばないの」と怒られた。…もう、兄さんなんか嫌いだ。






―――
匿名様、詩織様、ごんべ様リクの、ゆびきり兄さんとお風呂…です。すみません、あまり変態さ加減が伝わらない出来になってしまいました…というか、ほのぼのしてますよ、ね、これ← めいこの精一杯です勘弁して下さい!そして兄さんが腰にタオルを巻いてるのかはご想像にお任せします!←

リクエストありがとうございました!


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