窮鼠猫を噛めない





俺は戦慄した。

このフレーズ前にも言った気がするけどそんな事は今問題じゃない。問題は目の前に立ち塞がる愚兄、もといブラコンという最終兵器兄貴だ。さすがに背中からミサイルは出さないものの、その存在が既に最終兵器なんですね。わあ凄い。惚れちゃうよね?惚れたなら引き取ってくれていいんだぜ…?

「ナマエ」

ほら兄さんって端から見れば、顔良し。家柄良し。スタイル良し。優しいし気遣いも出来る。アカデミーを一年で卒業した天才で将来有望。実力も申し分無い。文句無しの良物件だと思うんですよ。

「ナマエ、聞こえてるか?」
「……聞こえてるよ。残念な事に」
「良かった」
「あんまり良くない」
「恥ずかしがりやだな」
「本気で嫌がってるんだよ」

…ただ、少し、頭がおかしいのが難点だけど。どこをどうしたらこの嫌そうな顔を見て恥ずかしがりやなんて台詞が出てくるんだ。その頭の中には何が詰まってるんだ。眼球も偽物か?一度取り出して丸洗いしてみればいいのに。

「おいで、ナマエ」
「だが断る」

だからその、手に持っているものを床に置け。話はそれからだ。

「…何が不満なんだ」

え?そこから?そこから分かってないの?いや、誰が女物の服を着たいと思うよ。特殊な趣味の持ち主じゃなきゃ普通に嫌だと思うんだよ。そして勿論、俺は特殊な趣味なんて持ってないので、兄さんが手にしてるひらひらふりふりのスカートなんて穿きたくない。

上は…まあ百歩譲って着てもいいと思います。ちょっとピンクが可愛いだけで普通のシャツだし。子供の頃って性別関係なく可愛いもの着せてるしね。それを踏まえればシャツは着てもいい。シャツはね。だがその可愛らしいスカートだけは頂けない。それを穿いたら大切な何かを失う気がする。…って事で、三十六計逃げるに如かず!

「母さああん!」
「!」

何処の家庭でも母親が一番強いと相場は決まっているのだよ!…プライド?そんなもの時と場所と場合によって変化させないと社会では生きてけないんだぜ!てか今俺子供なんだからプライドも何もないだろ。そんな事はアカデミー入ったら考える!

そうして居間での攻防から逃げ出した俺は台所に立っていた母さんの後ろに逃げ込んだ。多分、これが最終防衛ライン、だろう…。正直父さんは尻に敷かれてるので役に立たない。そもそもまだ仕事中で家にいない。

「あら、どうしたのナマエ」
「…兄さんが女の子の服着せようとする」

そして決め手に一芝居。

母さんのスカートをきゅっと握り締めて、うっすら涙を浮かべた目で見上げつつ、子供っぽい喋り方を意識して上目遣い!所謂泣き落としです。…プライドだけじゃ…ここでは生きてけないんですよ…!

でもこれは子供、サスケだから許される事ですよ。前世の俺がやった所で警察呼ばれてお仕舞いですから、そこら辺気を付けてね。

「ふふ…でもナマエは可愛いから、きっと似合うわよ?」
「ああ。ナマエにしか着こなせないと思う」
「……」

最終防衛ライン。陥落。謀反に合った。

…一体どういう事だ…なぜこの年で世知辛い思いをしなければならないんだ…。そして追い付いた兄さんが然り気無く俺にスカートを手渡して来るが、これはあれか。火遁で燃やしてもいいのだろうか。

思わぬ裏切りにうっすらと人間不振になりかけた俺は、どうせ逃げ切れないならさっさと穿いて楽になりたいとすら思い始めた。だって味方が誰もいないんですよ。孤立無援。四面楚歌だ。どう頑張っても形勢逆転出来る気がしない。

そう諦めかけた時、

「…ミコトもイタチも、その辺にしなさい」
「父さん…!」

救世主が現れた…!

いつの間に帰って来たのか、父さんが台所の入口に立って此方を見ていた。ごめん父さんお帰りなさい!さっき役立たずとか言って本当にごめん!これで深爪させてくれた恩もちゃらにしてあげるね!

いやー、やっぱ家庭で一番強いのは父親だね!さっき言った事は訂正、

「あなたは黙ってて下さいな」
「父さんには関係無い」
「……」
「……」

……出来ないね。ごめんね。

なんかもう…なんて言うか…父さん哀れ。父さん単品なら威厳あるのに、母さんと兄さんを傍らに置くとその威厳も霞むってどういう事なの…。二人が強すぎて逆に笑えない。

母さんと兄さんからのダブルパンチを食らって完全に沈黙してしまった父さんを放置し、俺は兄さんに部屋へ連行され、母さんは夕飯の準備を始めた。

滞りなく何時も通りの日常。

それが余計に拍車をかけて父さんが可哀想で、最早抵抗する気力もなれなかった。暫く兄さんの着せ替え人形になろうが、大切な何かを失おうが、明日からは少し父さんに優しくしようと思いました。





―――
兄さんが強すぎて逃げ回る過程を書けない気がした。から、父さん達を出してみた。本当にごめん父さん。黒野樺月様リク、ゆびきり番外でサスケ主に女性用の服を着させてみたくなったイタチに追い回される。です。…兄さんより父さんの哀れさが際立った話になってしまった…すみません、砂浜できゃっきゃうふふ的なおいかけっこはわたしには書けなかったんだ…!

リクエストありがとうございました!


prevtopnext


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -