めかくしおに





「…お前ら、うちはナマエと仲良かったよな」

めんどくせー下忍になって数日。任務と称した雑用で毎日こき使われて、班員以外のアカデミーで仲の良かった奴とも会う機会は減って行った、そんな日の事。いつもと同じくDランク任務の雑用後、やたら真顔のアスマ先生にチョウジと二人呼び止められた。

雑用疲れで早く帰りたくて思わず顔を顰めてしまったものの、先生の顔を見ればいつもの「めんどくせー」も喉の奥につっかえた。付き合いはまだ短いけど分かる、異様な雰囲気に隣のチョウジが戸惑った様に菓子の袋を仕舞った所でアスマ先生は口を開く。…どうしてか今すぐ、その口を閉じさせたくなる気に襲われた。

「うちはナマエが里を抜けた」

厳かな声と共に強く風が吹いて、俺はそんな事あるわけ無いと咄嗟に否定しようと動く口を何とか押さえ付けた。その変わり、次の瞬間俺は一人走り出した。止める声も無視して、ただ、その言葉を否定する事実が欲しかった。





屋根を伝って建物の屋上を蹴って道を無視して、ナマエの家への直線ルートを走る。アカデミーでも任務でも、今までこんなに必死に走った事のない体が悲鳴を上げそうになっても、それを許容して足を止めるなんて事はそもそも頭に無かった。今はただナマエの姿を見たくて。

嘘だろ、なあ。

疲労を訴える頭はその片隅でそればかりを永遠と繰り返す。全然笑えない冗談だ。ナマエを捕まえた後でアスマ先生をど突き回してやる。…そう思っているのに、何処かでそれを本当だと認めている自分がいる。

違うだろ。きっと今頃ナマエも任務終わって家にいんだろ。いや、認めろよ。だってナマエは

酸欠も相まってぐちゃぐちゃに纏まらない思考が足を縺れさせる。そのまま数歩進んだ所…うちはの集落のすぐ近くまで来て、俺の足は完全に止まってしまった。人気の無い道に響く俺の息遣いだけがもの悲しく、俺にさっさと認めてしまえと囁く。

「…嘘だろ」

滲む夕日が影を伸ばして俺を笑う。

知ってたんじゃないのか。
ナマエの異常に気付いてたんだろ?
でもお前は何もしなかった。
気付かないふりをしたんだろ?

踏み込むのが怖かったんだ。

「っやめろ!」

認めたくなくて、それが俺の間違いだと肯定したくなくて、震える足で再び地面を蹴る。紅にそまった道を逃げる様に走って走って、走った。

そうして辿り着いたナマエの家を見た瞬間、それまで否定に否定を重ねていた思考が一切途切れる。九尾襲来の際に里の外れへ移されたこの家の存在が、全てを表しているように感じられた。

…ああ、そうだ。俺は気付いてた。一族を、家族を亡くして尚笑っているあいつの異常に。

親父達はそれを防衛本能だろうと言っていた。いつも通りを装わなきゃ狂っちまうんだろうと。でもそれは違う事を俺は知っていた。あいつは『装って』なんかいないかった。いつでもそれがナマエだった。

笑うのも怒るのも全部がいつも通りのナマエだと知ってた。それがどんなに異常な事か知ってて、でも俺は関係を拗らせるのが面倒で、だから。

「ナマエ、」

見ないふりをした俺のせいか。

あのとき、お前に嫌われてもいいから問い詰めていれば、大丈夫かって肩を叩いてやれれば、お前はまだ此処に居たのか。また顔を合わせて笑える未来があったのか。そうしたら、お前は里抜けなんて考えなかったか。

幾つもの『もしも』が浮かんで消える。

そして、それと同じだけ感じる憤り。

何でなにも言ってくれなかったんだ。友達なんじゃねぇのか。俺達じゃ力不足だったのかよ。お前はいま、何を思ってんだ。

ぐるぐると回る思考に、もう戻らない友人に唇を痛いほど噛み締めた。すると滲む鉄の苦味に膝から崩れ落ちた俺を、烏が笑った気がした。

「馬鹿野郎…!」

俺も、お前も、とんだ馬鹿野郎だ。





―――
匿名様リク、夢主が里抜けしたときのシカマルの様子。です。すみません、予想以上の短さになってしまいました…。ですがこのまま掘り下げていくとシカマルがネガティブ過ぎて書くのが辛いです…←

リクエストありがとうございました!


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