「そういえば銀時、報告し忘れている事があった。」

「あ?なんだよ。また離婚云々の話?やっぱり別れられなかったとか?」

「いや、そこは綺麗さっぱり解決した。実は新しく付き合う事になった女子(おなご)が出来たのだ。」


へ?そんな間の抜けた顔をした銀時は、最後の一口を食べようとしていた菓子パンから顔を離した。それと対照に俺は持っていた梅おにぎりを一口口に含む。
昼休みの公園。まだまだ寒い季節だが、屋外に居ても日差しを浴びれば然程気温を気にする事も無かった。
特に意味もなく昼食に銀時を誘った。会社の中にあるコンビニに寄った後、よく行く公園のベンチに腰掛ける。菓子パンを食べながら紙パックのいちご牛乳でそれを流し込む銀時に、糖尿病で死ぬぞ、と言うと、梅おにぎりを緑茶で流し込む俺に銀時は、ジジイかよ、孤独死すんぞ、と言ってきた。そこで気付いたのだ。そういえばこの男に言っていなかったと。


「まじ?切り替え早くね?」

「そうか?そもそも貴様が早く次を見つけた方がいいと言ったのではないか。」

「そんな事言ったっけ、俺。」

「ああ、言った。」


まじかよー、また先越されたー、てかお前意外とモテるよね?などとジト眼で言ってきた銀時は、なぜか不満そうだ。誰も居ない家に帰るのが寂しいと言っていたのはこの男だと言うのに理不尽な奴め。まぁ、別に寂しさ故に新しい恋人を作った訳ではないが、こいつの言葉が背中を押した事は事実だった。
散々暴言を吐いていた銀時は、そういや、とふと思い出したかのように呟いてもう一つの菓子パンを開けた。


「相手どこの人?会社?うちの部署?大学時代の知り合い?…はねぇか。お前友達居なかったもんな。」

「失敬な!多少は居たわ。というか貴様も同じようなものだろうが!どちらも違う!」

「いや俺の方が完璧友達多かったね。特に女友達ね。で?どこで出会ったんだよ。」

「電車の中だ。」

「電車?なにそれ。ドラマみてぇじゃん。」


いいなー俺もそんな出会いしてみてぇなー。そう言いながら伸びをした銀時は、相手どんな子?いくつよ?と質問をして持っていたいちご牛乳を口いっぱいに含んだ。
そんな何気なしに投げかけられた質問に、俺も何気なしに、17歳と答える。すると途端に場の空気が変わった。沈黙。長い沈黙。死んだ魚の目のまま固まった銀時を不思議に思いその頬を抓ると、含んだままだったらしいいちご牛乳を顔面に吹きかけられた。


「ブハッ!!」

「うお!!銀時貴様何をするのだ!!汚いぞ!!」

「てめぇこそ何してんだよ!!17!?は!?女子高生!?」

「あぁそうだ。女子高生だ。」


俺は持っていたハンカチで顔を拭いながらそう答えた。銀時は動揺を隠せないのか、持っていた紙パックをぐしゃぐしゃに握りつぶしていた。
こんな反応が返ってくるだろうということは多少は覚悟していたが、ここまで驚愕されるとさすがに不味い事を言ったのではないかと焦りが生じる。だが隠していてもいつかはバレてしまうであろうし、この事を未来永劫秘密にしておくつもりもなかった。彼女との未来をまだ考えたりはしなかったが、長い付き合いであるこの幼馴染とはきっと付き合っていくだろうと薄々わかっていた。
未だ開いた口が塞がらないと言った様子の銀時だったが、紙パックから溢れ出たいちご牛乳が手を伝うのに気付いたのか、力を緩め俺のハンカチを強引に奪い取った。
俺は抵抗もせずに、いちご牛乳を吸って薄ピンクになっていくハンカチを眺めた。銀時の表情は一驚のものから、訝しげなものへと変わっていた。


「お前それ、犯罪じゃないの?」

「いや、それはだな、俺も懸念するところであったから調べたんだ。相思相愛であれば、法律には触れんらしい。」

「そ、そうなんだ…。」

「まぁ犯罪だとしてもバレなければ問題ないだろう。」

「…なんかお前って、そういうところ肝据わってるよね。」


苦笑いなのか、呆れ顔なのか、はたまたドン引きしているのか、よく分からない顔をした銀時は溜息を吐いて立ち上がった。
俺も時計を見、そろそろ昼休みが終わるのを確認すると腰を上げた。
ゴミを近くのゴミ箱に捨てて歩き出す。


「今度会わせてよ。」

「え?」

「会いてぇじゃん。女子高生と話す機会とか滅多にねぇし。」

「あぁ、都合が良い時な。」

「で、その時馴れ初め聞くわ。で、目ぇ覚まさせてやんねぇとな。お前の電波に騙されてるって。」

「…銀時、余計な事を言うなよ。」


はいはい、そういってハンカチを俺に投げつけてきた銀時に俺は掴んだハンカチをもう一度投げ返した。


「洗ってから返せ馬鹿者。」

「うるせぇロリコン。」





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