会いたいなぁ、

 過去問を最後まで解き終えて、集中の糸を切り顔を上げた。ふう、と一つ息を吐いて不意に視線を投げた窓の外では分厚い雲の寒空の下、校門前の木々が風に小さく揺れている。
 もうこの時期になると三年生は自由登校で決まった授業もなく、この教室も来たい生徒だけが各々勝手に黙々と自習をしているような空間だった。赤本を借りたり質問したりするのに便利で、自由登校期間になった今も俺はこうして学校に来ては自習をしていた。決められた時間の登校もないため、自分のペースで来て帰ることができるのも気が楽だ。
 本来の自分の席ではない窓側最後尾のこの席から、人もまばらな教室の黒板の隣に貼られたカレンダーにふと目線をやる。二月十四日。世間ではバレンタインだなんだのとチョコレートの祭典が騒がれているが、受験生の俺からしてみれば入試本番まであと一週間と少ししかない。彼女からのチョコレートがいらないわけではない。会いたくないわけがない。会いたい。切実に。けれども会ったら会ったで甘えてしまいそうだし、かといって会えないのも寂しい。じゃあね、と手を振ったあの秋の日の彼女の残像が胸の端をちりちりと焦がす。受験まで会わないと言ったのは自分だ。彼女と、自分のために。その気持ちに嘘偽りはない。二人で受かったら、今までできなかったことが何でもできる。絶対に彼女と同じ大学に行ってやる。あともう少しの辛抱だ。
 よし、と心の中で気合を入れ直してカレンダーから戻した視線が横切った窓の外、校門横に先程まではなかった人影を見つけた。セーラー服の後ろ姿。ここからだと遠くて小さいが、見間違えるはずがない。彼女だ、と思ったのとマフラーの上の頭がこちらを振り向いたのがほぼ同時だった。目が、合った。彼女の表情が驚いたものに変わるのも見ないうちに席を立って駆け出した。
 階段を降りる作業すら煩わしくて、雑に階段を飛び降りる。足が痺れるのも気にせずに急いで彼女がいた校門へ上履きのまま飛び出した。案の定、そこには寒空に頬を染めて目を丸くした彼女の姿があった。ずっと焦がれていた彼女をいざ目の前にして少し戸惑う。

「来ちゃった」

 なんちゃって、そう小さく笑って小さな紙袋を掲げた彼女がたまらなく愛おしい。履き替えずにいた上履きを見て、彼女がおかしそうに笑った。

「そんなに慌てなくてもいいのに」
「おまえに会いたくて」
「うん、わたしも」




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