「受験票持った?」
「持った」
「筆記用具」
「入れた」
「財布」
「ある」
「ケータイ」
背中を向けて立ったまま玄関で靴を履いていた彼がこちらをくるりと振り向いた。返事の代わりにわたしの目の高さで掲げられたケータイにほっと息を吐く。
「他にもなかったかな……」
「ははっ、心配しすぎ」
ほとんど独り言のわたしの言葉に、少し困ったように笑われる。信用していないだとか、彼が頼りないだとか、そういうことではない。単純に心配なのだ。弟がいるからかこういう時、そわそわと気になってついつい世話を焼いてしまう。
「じゃあ行ってくる」
「頑張ってね!」
「おぅ!」
片手を胸の前で握りしめたわたしのガッツポーズに、敬礼のポーズで返してくれる彼が可愛い。「じゃあ行くわ」と玄関の扉を開けて外へ踏み出しかけた彼が不意にこちらを振り返った。
「……っと、忘れ物」
「え?!」
なんだなんだ、と考える間もなく戻ってきた彼の影が降ってきて、頬に弾けるようなキスが飛んできた。そのままリップ音を立てて唇にキスが一つ落とされる。
「今夜は合格前祝いの焼肉な」
「うん、楽しみにしてるね」
気が早いなぁ、とは思わない。彼なら絶対合格できる。彼とわたしの未来は、きっと明るい。