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夜が明けるまでゲームを気が済むまでやったり、映画をひたすら観る。そうして皆が働く為に身を起こし、活動を開始する頃に眠る。というのは、どことなく優越感が込み上がる。
しかし一人でゲームするのも、一人で映画をひたすら見るのも、共感する誰かが居ない上に話し相手すら居ないというのは、寂しいものがある。

友人を誘って映画上映会かゲーム大会でもやろう!という事をすぐに思いつく。
しかし社会人となれば、調節せずに休みが合うというのは奇跡に近いもの。
折角取れた連休。遊びたくてたまらないなまえは、友人という友人に声をかけるもことごとく断られてしまった。
布団にゴロリと背中を預けてもだもだと両手足をばたつかせ、誰か居ないかと連絡先をスクロールしていく。
誰も彼も子供が居たり、先に用事が入っていたり…要するに、今日の夜から夜通しで遊びつくそうと思っても付き合える人が居ない。

遊びたかった旨をぐちぐちと友人に零す幼稚さを出せば、相手をするのが面倒臭いと思われたらしい。
「そんなに相手欲しいなら、金に物を言わせたら良いじゃない」なんてメッセージと共にURLが送られてくる。
示されたページを押せば、スマホの画面に映し出される添い寝サービスという文字。
求めていたものとはかけ離れた文字の出現に首を傾げたものだが、すぐに友人から補足が入った。
なんでも添い寝以外にも一晩中一緒にゲームをしたり、映画を観るのに付き合ってくれたりと使い方は多岐に渡るらしい。

こんなサービスあったのか…
もしかして使った事あるの?
そんな疑問を持ち、率直にメッセージにしたためて送ろうと思ったが、人の趣味嗜好を口にするのは止めておこう。
そう思って途中で文章を消してページを再度開いた。

「…初めて会う人とそんなゲームや映画で盛り上がれるものなのかな?」

趣味嗜好が違えば、地獄の時間になりやしないだろうか。
折角の連休、積み上がったままのゲームや借りるだけ借りてまだ見ていない映画を見たりとしたいものだが、友人にことごとく断られたなまえが頼るのは悲しいかなサービスしかなかった。

誰かと共有したい。出来れば一緒に酒を飲んでほろ酔いで馬鹿を言いながら映画を見たい…!そんな気持ちから、画面に映し出されている顔を次々にスライドさせていく。
どれもこれも似たような顔に見えてしまい、なまえは目を閉じながらシャッシャと画面を雑に操作しランダムに選んだ相手を呼び出す事に決めた。

そうして大して顔も見ずにポチリポチリとボタンを進めていき、ご予約承りましたとの簡素な文字が画面に映し出される。
どんな人が来るのだろう。それも楽しみの一つかな。なんて考えながら、ベッドにスマホを放り投げて据え置きゲーム機をテレビと繋ぎ始めた。

下手は下手なりにプレイを楽しんでいるものだが、どうもクリア条件が厳しいのか全くといっていい程次のステージへと行く事が出来ない。
攻略を見ても「走る」「スライディングする」なんて事しか書いていないもので、先程から数十回同じ事を繰り返しているなまえからすれば「やってるよ!やってるけど出来ない!」と攻略画面を投げたくなったものだ。
悲しい事に技術が追いつかない。

「(やっぱりここ突破出来ない…!ここだけ代わりにプレイして欲しい…)」

どうしても間に合わず、幾度となく見たゲームオーバーという画面にイラつきを覚えていると、チャイムが鳴り響く。
真っ赤な画面になって止まっていたのを良い事に、のそりと立ち上がってドアへと向かう。
誰だろうと考えながら確認せずに開くと、そこには二人の男性が立っていた。

「…?」

見覚えのない男性二人の来訪に、思わず目を細めて「誰だっけ」と思い起こそうとしたが、考えても誰かわからない。
そもそも知り合った事のない人物の可能性の方が高い気がしながら、なまえは首を傾げてゆっくりとドアを閉める。
緩慢な動きだからと油断していたのか、訪問してきた男性達は特にアクションを起こす事はなかった。
しかしすぐにドアの向こうで割と大きな声量で何か言っているもので、なまえは慌てて自分のスマホへと走った。
不審者情報なんてこの付近ではそうあるものでもなかったというのに、まさか自分に降りかかるとは。そんな事を考えながらスマホを開いて攻略情報のページから別のページを開く。
そこには「ご予約承りました」の文字。

「………」

スライドさせていくと、文字の下には来訪時刻と顔写真、更には名前が再確認させるように表記されており、なまえはスマホを片手に恐る恐るドアへと向かう。
その頃にはドアの向こうは静かになっていて、静寂が逆に怖かった。
ドアをそっと開けると、二人してあからさまに顔をしかめている。

「す、すみません…時間を忘れていました…」

「今の反応で、そうだろうと思った」

「多方、写真もロクに確認してねぇだろ…」

呆れたような声を出す二人は、改めて見ると非常に似ており、声も同一人物から発せられたものかと勘違いを起こしてしまいそうな程。
普段の生活圏内ではお目にかかる事もない双子の存在に、思わず玄関先で「双子!?」と声を上げた。
選択画面を見ずに選んだなまえは、まさか複数人やってくるという事を想定していなかっただけに、素っ頓狂な声を上げてしまったものだ。
その余りにも情けない声に二人して薄い眉根に皺を寄せ、訝しい視線がなまえへと注ぐ。

「お前、選択画面も見ずに選んだな?」

「珍しく仕事入ったかと思ったら…はぁ」

「ご、ごめんなさい…?」

「まあいい。どうせ料金だって今更変更なんてねぇし」

「ほら早く入れろ。夜風はちょっと寒ぃから」

「あ、はい。どうぞどうぞ」

大きくドアを開けて二人を迎え入れると、ゲームオーバーの文字のままの画面を見て「今日のプランは夜通しゲームか?」「ソフトはこれか。これ新作出てるのにあえてこれか?」と入ってすぐに趣旨を理解された。
なまえは後頭部を掻きながら照れたように笑い、本日は「夜通しゲーム大会」という事を伝える。
二人共なまえがやっていたゲームは既にプレイ済らしく、テレビの画面を見ては「慣れれば簡単だぜ」「これチャプターどこだ?」と順応が速い。

「そういえば、二人の名前聞いてなかったね。私はなまえ」

「洋平」

「浩平」

「早速だけど、詰んだの!ここもう10回以上死んでるから代わりにやって!お願い!」

バチンと両手を派手に合わせてお願いすれば、洋平なのか浩平なのかコントローラーを取りなまえが座っていた場所へと陣取る。
一人が画面に向き合う間、なまえは冷蔵庫で茶の用意と、お菓子を買い込んで雑に置いていた場所を覗き込む。
何にしようかと考えていると、コントローラーを持っていない方がなまえの居るキッチンへと来た。

「お菓子、何がいいとかある?」

「深夜に食う菓子っつったら決まってるよなぁ洋平」

「ポテチだろ、浩平」

当然の如く会話に入って来たもう一人の声で、目の前に居るのが浩平で、コントローラーを手にしてプレイをしてくれているのが洋平だと知る。
なまえはポテチの袋を手にして「どの味?」と言うと、二人してすぐに塩味と声を重ねる。
王道だなぁと笑えば、二人から「王道だからいいんだろうが」と反論されてしまった。
なんだか昔から知ってる友達が遊びに来たような気兼ねのなさに、思わずプッと笑ってしまったものだが、二人は若干お腹がすいているのかポテチの袋を広げる事に専念していた。
上手く開ける事ができなくて「開けろなまえ」「ハサミ持ってこい」なんて言うもので、一応本日の仕事相手だろうなまえに命令する。
しかしその感覚がより「友達」に近くて、求めていたものをあっさりと叶えてくれる二人の存在が嬉しくて、へらへらと笑いながらハサミを取りに行った。

「うっそ!あのチャプタークリアしたの!?どうやって行ったの!?」

「コツとしちゃ、出来るだけ内側に寄りながら走り続ける」

「ここでスライディングだ。スライディングに失敗したら這いずりダッシュでも間に合う」

「プ、プロか何か…!?」

なまえが何十回も死んだ箇所を難なくクリアする二人に、なまえはポテチをパリパリと食べながら画面を凝視する。
自分よりも遥かに手馴れているプレイ、そして隣で軽く解説してくれる存在になまえは感嘆したものだ。
プレイ済だということもあるだろうが、きっと何度もやり込んだのではないかと思うほどのサクサク具合。

ゲームが苦手な人が来たならば、そろそろ返さないといけない借りた映画を見ていこうと思っていたものだが、その必要はなさそうで一安心する。
むしろ、ゲームに詰まったらこの二人に頼めば、クリアまでの助言が貰えるのでは。なんて思ってしまったくらいだった。

「ほら、ここからはお前がやれよ」

「初見だろ。存分に怖がれよ」

「い…意地悪いなぁ!」

自動的にセーブがされた瞬間にポン、とコントローラーを唐突に渡されなまえは慌てて画面を見る。
しかし既に画面は既に敵が迫ってきており、なまえは慌てて構えるも間に合う事なく襲われ画面内のなまえが操作するキャラクターは転倒。
どうにかして好転に向けようと奮闘するなまえはガチャガチャと半ばパニックになりながら操作するもので、その様子を見ていた二人はなまえが奮闘する背中越しに笑いあった。

「こんな状態で逆によくあそこまで辿り着けたなぁ?」

「詰んだ場所、割と後半だったぜ。こんなのでパニクってるようじゃ、一人でそこまで行けたとは思えないなぁ?」

「う…い、いつもは友達と二人で遊んでるの!無理一人怖い手伝って!」

「怖くて出来ないってか?」

「なんでホラーゲームなんて買うんだよ…」

ケタケタと嘲笑う洋平と呆れながらも近くに放置されていたコントローラーを手にして準備する浩平に、なまえは既に赤く染まった画面の光を受けながら「ありがとう〜!」と両手を合わせた。

気づけば朝になっていたのか、カーテン越しに太陽の光が溢れて部屋を細く照らす。
その細い光は洋平と浩平の二人が握るコントローラーを僅かに照らしていたが、慣れた手付きで操作していく二人は陽の光の暖かさを感じる暇も無くラスボス戦へ。
二人の後ろでなまえはごくりと息を飲みながら見守っていた。
鮮やかな守備でラスボスの体力を削っていく二人のコンビネーションに、なまえは興奮してまともな言葉が出ないままに、画面を注視する。

洋平も浩平も、途中までは交代でなまえと一緒にプレイを楽しんでいたものだ。
しかしラスボス戦での余りにも操作の下手さやパニック具合に何度もゲームオーバーになり、最終的には「お前ホラゲ向いてねぇよ!」「俺らがやるから見て覚えろ馬鹿!」なんて暴言を吐いてコントローラーを奪い、この現状となる。
なまえはというと、自分が操作するよりも華麗に動くキャラクターに目をキラキラと輝かせて「凄い」「やばい」なんて言葉しか口から零れないもので、暴言なんて耳の中を通り過ぎた様子だった。

そうして最後の最後で洋平と浩平がクリアしたラスボス戦が終了した事で、ようやく朝が来た事に二人も気づいた。
エンドロールに流れる曲を流し聴きながら、カーテンの隙間から溢れる光を見て「朝か」「腹減った」とそれぞれ言う。
コントローラーをクッションの上にポスンと置いて寝転がる二人は、さながら昔からの友人のよう。

「いやホント二人共ありがとう!友達と予定が合わなくてなかなか進められてなかったのよコレ。クリア出来て嬉しいから朝ごはん食べてって」

「最後クリアしたの俺達だよなぁ洋平」

「なまえはむしろ足引っ張ってたよなぁ浩平」

「ウッ…痛いところを…」

素直に御礼を述べれば二人からは辛辣な言葉しか出ないもので、なまえは胸を押さえながらヨヨヨと泣き真似をするも、二人からは「下手」「大根役者」と散々な評価。
酷評になまえは演技を止め、すっかりカラになった二人のグラスを手にキッチンへと足を運び、お茶を注ぐ。恭しい様子で「お茶をお納めくださいませ双子神よ」とふざけてみる。
そんな茶番に洋平も浩平も馬鹿馬鹿しいと感じたのか、無言でお茶を引っ手繰り一気飲みをしてはなまえの目の前にカラのグラスをドンと置く。

「次も詰まったら呼べ」

「その時までは操作くらいはマシになってろよ」

「え!呼んでいいの!?もう嫌とか言わない!?ホント!?」

洋平と浩平の様子から呆れや怒りが含まれているものだと思っていただけに、意外な言葉を貰ってなまえは思わず驚いてしまったものだ。
そもそも友達がよくゲームの話をする上に面白いとオススメしてくるので、オススメされるがままに買ってしまうなまえの部屋には詰んでいるゲームが沢山ある。
今回一緒に夜更ししてまでクリアしたゲームは氷山の一角。

「えー!詰まってるゲーム他にもあるんだけど、いつ呼ぼう…!」

サラリと詰まっているゲームが沢山ある事を予想させる発言に、洋平と浩平は顔を見合わせて冷や汗をタラリと垂らした。

「つ、次までに操作マシになってなかったら即帰るからな!」

「か…身体が動いてぶつかってくるのもやめろよな!」

「え…ええ!難易度高い…!」


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write:壱弍燦

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