「ボス!これはどういうことですか、きちんと説明していただきますよ」
「……」

椅子の上で不遜に座るザンザスの前に叩きつけられた紙にはびっしりと数字が並んでいた。そこにはヴァリアーの予算がいっきに半分も減ってしまったことを表している。
この予算を自由に引き出せる人間は限られている。そうして白羽の矢が立ったのはボスであった。
無言でしらを切るつもりだと予想はしていたが、なんとしても聞かねばなるまい。こっちは給料と生活がかかっているのだ。
ボス、ボス!問い詰めるように迫るとさすがのザンザスもいつもは鋭い赤目を泳がせた。

「だいたいどうしてごっそりと無くなってしまうんです?何か買ったんですか?まさか誰かに施しを?答えてください!」

もう一度その動かぬ証拠を強調するように紙ごと机を叩いた。相手が諦めないと分かるとザンザスは溜め息をついて、懐から小箱を取り出す。

「…なんです?」
「いいから開けてみろ」

訝しげにそれを開くと、あっと息を呑んだ。きらきらと光るいかにも高級感たっぷりのダイヤモンドがはめ込まれた指輪。これはもしや…と期待を滲ませてザンザスを見ると彼は珍しく笑顔で頷いた。

「ぶはっ、貧乏人には眩しすぎたか?随分と間抜け面に見えるぜ」
「これ…」
「もちろんてめえが予想しているものだろうよ。おら、右手貸してみろ」

ザンザスのすらりと長くて綺麗な指が優しくそれを右手の薬指にはめてくれた。付き合い初めてから半年、ついに婚約者の座まで辿り着いた…!感激のあまりにわたしはすっかり騙されていることに気づかない。

後でスクアーロの報告により失われた予算の大半はカジノですったことが判明。それに比べたら指輪の額など微々たるもの。どうやらこうして問い詰められることを予想してご機嫌をとろうとザンザスが指輪を買ったということもすっかり分かり、般若のごとく海外に逃亡したザンザスを彼女が追いかけたことはもはや言うまでもなかろう。
しばらくヴァリアーでは質素な生活を強いられたようだ。

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