独立暗殺部隊ヴァリアーの大広間に次々とダンボールが積み上げられていった。それを待ち望んでいたように女は手を叩き、ビリビリと封をしていたガムテープを開いていった。どうやら中身は折り紙や薄い色紙のようだ。

「うわっ、なーにこれ」
「ちょうどよかった!手伝ってちょうだい」

入ってきたベルはいつもの大広間が異様な光景と化していることにひきつった笑みを浮かべた。居合わせたフランもげっとあからさまに表情へ出す。その二人の様子に気づかないのか彼女は手伝うように要請する。
今日はヴァリアーなら誰しも知っているボス、ザンザスの誕生日であった。そのために自称健気な彼女はお誕生会を開こうと言うのだ。この大量のダンボールは飾り付けの道具らしい。そんなもの手配すればすぐに片付くのにと二人は文句を言う。

「ミーの幻術でやった方が早くないですかー」
「そんなの愛情が足りないわ。やっぱり自分の手で用意してこそ心からのお祝いってものじゃない」
「うしし、おまえの愛重くね?」
「いいからベルはこれ切ってて頂戴」
「王子のやる仕事じゃないしー」
「ふうん…王子にも出来ないことがあるんだね、かわいそうに」
「かっちーん」
「単純すぎですよ、堕王子」

口ではぐちぐちと文句を言いながらも物珍しいのか手伝い始めた。さすがというべきかベルは自慢のナイフですばやく紙を切っていく。それをペタペタと糊付けして輪っかに重ねていく。みるみるうちにフランとの共同作業で100Mもあるんじゃないかというほどの長さに成長していった。
次に薄い色紙を重ねて扇折りをし綺麗な花を作っていく。正直言ってここからが内職のように地味な作業であった。ひたすら折り続けて、ホチキスで留め、花を広げる。

「貴様ら何をしている!!この散らかり用はなんだ!」
「お一人様手伝い参加強制入りまーす」
「うししし…いらなくね?」
「頑張ってくださーい、僕もう寝ますんでー」

レヴィも訳が分らぬままに手伝いをさせられて黙々とその後も作業が進んでいく。ついに空になったダンボールをその分埋め尽くすほどの花が完成した。早速豪華な壁紙に随分チープな飾り付けをしていった。天井からもお花や星など随分メルヘンなものがぶら下がっていく。メイドや執事を動員しての作業だからすぐにそれも終わった。

「出来たわよ〜ん!」

そこへルッスがウェデングケーキかというくらいの巨大なケーキとたくさんのご馳走を持って来る。あっという間にテーブルはそれで埋め尽くされた。味見と称して食べようとするフランの手を叩く。

「う"ぉおおおい!おまらさっさと行くぞ!!」
「スクアーロ、見て、ボス喜ぶかな」

ひと際大きな音を立ててドアを開けたのは言うまでもなくスクアーロだった。既に頭から出血しているところを見るとボスに会って来たらしい。怪訝な顔つきのスクアーロを引っ張って会場をお披露目する。よく出来てるなぁ、と感心はしたがそれだけだ。さっさと準備をしろと言い捨てられる。

「何の準備?何かあったっけ?」
「聞いてなかったのか…今日は本部でボスの誕生日を記念してパーティーを開くんだぞぉ」
「えっ」

その言葉に激しく動揺し、持っていたクラッカーも落としてしまう。大広間には何ともいえぬ空気が広がった。すかさずルッスが慰めるように頭を撫でる。微かに聞こえる泣き声にスクアーロへ非難のまなざしが向けられた。

「女の子を泣かすなんて先輩最悪ですね、見損ないました」
「し、仕方ないだろうがぁ…俺のせいじゃねぇぞ!」

おろおろと事態をどう収拾しようか途方に暮れるスクアーロをよそに、わんわんと女は泣いた。せっかく準備もしたのによりにもよって本部でパーティーとはあまりにもひどい。
そこへお待ちかねの本人がドア…は既に開いているのでスクアーロを蹴って登場した。突然のことに対応出来ず皆唖然としてボスを見る。見回して状況を理解したのかそのまま黙って女の元へザンザスは歩み寄った。はらはらと目を赤くして泣く女を優しく抱き寄せる。

「ううっボ、ボスをお祝いしてあげようってこっそり頑張ったのに…!」
「ドカスが。さっさと泣きやめ、誰がくそじじいのとこまで俺が出向くかよ」

ぴたっと女の涙が止まった。みるみる嬉しそうに顔を輝かせて背の高いザンザスを見上げる。その現金さにぶはっとザンザスは珍しくふきだして笑った。

「祝うんなら早く祝いやがれ」
「うん、いま蝋燭付けるね」
「ボスが蝋燭消すとか…うしし」
「ミーには想像できませんね」
「あら〜ん、ケーキ入刀の準備なら整っているわよ」
「お、俺はカメラを持って来る!!」
「いったい本部に何て言い訳をすりゃあいいんだ」

広い広いテーブルの上座にどっかり座って足をのけるボスを中心に思い思いプレゼントの品も差し出す。まったくヴァリアー始まって以来幸せなパーティーであった。
ところがその後に九代目からの電話があったせいか苛々したザンザスにより蝋燭の火は消すどころか憤怒の炎によってますます燃え上がり、大広間全体がこんがり焼け上がったのはまた別の話である。


(091010)

お誕生日おめでとうボス!

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