ザンザスが一歩踏み出しただけで、会場の雰囲気ががらりと変わった。和やかな談笑が潜まり、息を止めたようなピリピリした空気が走る。様々な視線がザンザスと、隣にいるなまえに注がれていた。
なまえは改めてすごい人なのだ、とザンザスをしげしげ眺める。周りの視線などいっさい気にせずにザンザスは中央に立つ年配の紳士を見据えた。

「これは…驚いた。まさか本当に来てくれるとはね」
「テメェで呼んどいて世話ねぇな。ぼけたか、じじい」

いつもよりずっと不遜な態度でザンザスは、敵意剥き出しにのたまう。しかし老人は目を見開いた表情を見せたものの、すぐに落ち着いた笑顔に戻った。

「随分可愛らしいお嬢さんを連れてきたものだ、こんにちは」
「え、あ、こんにちは」
「日本のお嬢さんだね、ザンザスとはどういった縁で?」

心底不思議そうに尋ねられたが、まさか拉致されたとは言えるはずもない。こちらこそ、ザンザスとはどういった関係で?と訊いてみたい気持ちでいっぱいだ。
なまえは苦し紛れになんとなく笑い、お茶を濁した。何か訳ありと察したオジサマがザンザスに視線を戻す。

「素敵なお嬢さんのひとりやふたり連れてきたらどうかと提案したのは私だがね、無理強いはよくないと注意しておくよ」
「フン……」

もう話すことはないとばかりにザンザスはなまえの肩を乱暴に掴んでその場を去った。
いったい誰だったのか、おそらく彼に会う為に来たことは間違いない。ただザンザスのオーラが今は触れるなと言っているのが分かったので、なまえは黙って隣を歩いた。
後ほどスクアーロによって分かったことだが、オジサマはザンザスの父親にしてボンゴレファミリーの九代目だったそうな。あれが親子の会話かとなまえは耳を疑った。

ザンザスは実に面白くなさそうにウェイターから酒をもぎ取った。その癖まずいと騒ぎ、支配人に上等のワインを開けさせる始末。誰もが畏怖しながらも、彼のご機嫌取りに話しかけてきた。ボンゴレファミリーとはよほどマフィア界において権威のある集団のようだ。
時折なまえの存在が気になるのか尋ねてこようと口を開いた者もいたが、ザンザスのひと睨みでタブーだと悟り、なまえは一切出る幕はなかった。なんだか拍子抜けをして、ザンザスの傍らちびちびと酒を嗜む。

そのうち少量ながらも顔が熱くなって、なまえはザンザスの袖をくいっと引っ張った。

「なんだ?」
「ちょっと外で風に当たってくるわ」

そう告げてテラスの方へ歩いていくと、ザンザスの腕がなまえを掴んだ。

「一人で行くな」

どうやら着いてきてくれるらしい。さりげなく前に進み出て、なまえの手を持ち直し、リードする。染み付いたラテン系の成せる技なのか、ごく自然にこういった動作を取られるとそれはそれで恥ずかしい。先程よりもずっと真っ赤な顔を隠すようになまえは俯いた。


(120521)

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