「部屋から出ろ」
そんな冷酷なボスの物言いに、今度という今度は我慢の限界だった。ワインレッドに染め上げられたワイシャツを脱ぎ捨て、急いで辞表を書きあげる。憧れのヴァリアーに入隊して、三か月。三日坊主の自分がよくここまで頑張ってこれたものだ、偉いぞ自分!しかしボスの度重なる暴力には閉口せざる得ない。もう無理、これでワイシャツが何枚おじゃんになったかしら。
だいたい口を開けばカス、機嫌が悪いとドカス、まともに名前なんか呼ばれたことがない。そもそも隊員の名前覚えているのかどうかすら怪しい。スペルビ先輩があの怒りに惚れた云々言っていたけどわたしにはまるっきり理解が出来なかった。
「ボス、わたしここを…」
すぱぱぱーん!
書きあげた辞表を持ってボスの部屋を開けた瞬間、はじけるような音にびっくりして尻もちをつく。あれ、あれあれ、いつの間にかヴァリアーが全員集合している。彼らの手に握られたクラッカーが音の正体だったようだ。
「Buon Compleanno.」
口々に言われる言葉に、あ、そういえば今日が誕生日だったと今更ながら思い出す。ルッス姐さんにつれられて、机に置かれたバースデーケーキに涙崩壊。ウエディングケーキにも似た巨大なケーキ。
「ボ、ボス…!覚えていてくださったんですか!」
「ったりめーだ、カス」
とりあえず辞表の出番は当分なさそうである。
(090622)