「ちょ、ちょっと!なにこれ…っ!!」

途中で逃げて来ましたと言わんばかりの様子でなまえが部屋から飛び出した。背後から、なまえ様と悲痛なメイドたちの声が聞こえる。

「なんだ、誘ってるのか?」
「、は……」

なまえはザンザスの視線を追って、肩からずり落ちるドレスの紐を慌てて直した。
ザンザスが用意させた真紅のドレスはなまえの体に吸い付くようにぴったりで、背中は大きく開いており、実に扇情的だ。メイクもいつもと違って、ぱっちりとしたアイラインに薔薇色のようなチーク、とどめの濡れるようなルージュ。
髪も巻いてあるが、まだふわふわと漂ったままである。おまけに裸足のまま、という何とも中途半端な状態だ。
未完成ながらも艶のあるなまえの恥らう様子にザンザスは満足しつつ、確保しに来たメイドたちに呆れた表情を見せた。

「続けろ」

威圧的な低い声でザンザスが命じると、すっかり恐縮しきった様子でメイドたちはなまえを再び部屋に連れ戻す。まだ話は終わってないとなまえはわめいていたが、すぐに大人しくなった。

それから30分の後、ようやくなまえは開放された。ヘアーメイク共にきっちりとまとめられ、今度はヒールを履いている。不安げになまえはザンザスを見上げて、息を呑んだ。
こちらもヴァリアーの隊服とは打って変わって、スーツを着込んでいる。さして差はないように見えるが、どこか新鮮であった。

「惚れたか」

しばし呆けてなまえが見つめていたもんだから、にやりとザンザスは笑って揶揄する。あながち否定も出来ないものだから、ふいと顔を背けた。それに対してますますザンザスは笑みを深くする(傍から見れば何を企んでいるのかと思うほど悪人面だったが)。
そのままなまえの手を取って、門の前に停められた黒塗りのリムジンに乗り込んだ。続けてスクアーロ含め、ヴァリアーの精兵が乗り込んだもう一台が発進する。

夕暮れから夜に変わって、到着したのは高級プリンスホテルだった。どうやらここでマフィアの晩餐会のようなものが催されるらしい。
きらきらとしたエントランスホールにはどれもこれも堅気には見えない顔ぶれが揃っている。ザンザスには負けるものの、凶悪面をした屈強な男たち、かと思えば理知的で頭の切れそうな紳士。傍らにはどれも妖艶な女性たちが。
一歩踏み出すのも躊躇われるくらいになまえは圧倒された。その気持ちが無意識に現れたのであろう、ザンザスに取られている手をぎゅうと握る。

「折角綺麗に仕立ててやったんだ、ない胸くらい張ってみせろ」
「……それ、勇気付けてるつもりですか」

あまりのいい様に、なまえは怒りも通り越して気抜けした。と、同時に緊張も吹き飛ぶ。不思議と彼がいるなら大丈夫だ、という安心感が湧き上がった。


(120502)

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