どうしてこうなってしまったのか、わたしはわたし自身に問いたい。高級感漂う洋館、敷き詰められた絨毯が靴の音を吸い込んでゆく長い廊下、そうして執事と思わしき燕尾服の男性に案内された一室は、映画で見るヨーロッパ貴族社会の晩餐会の一室そのままで。思わず眩暈で倒れそうになるのを後ろの男が支えた。

「腰が抜けたか?」
「……冗談でしょ」

ふっと、わずかに鼻で笑うように言うものだから、むっとして肩に置かれた手を振り払う。反抗的な態度に気を悪くするかと思いきや、満足そうに男は笑って、執事に引かれた椅子へどかりと座る。内心おろおろするわたしにも男の隣の席を案内されて、とりあえず一息ついた。
さてここはどこか?と尋ねられれば、こう答えるしかあるまい。ボンゴレファミリー独立暗殺部隊ヴァリアーの居城だ。強引に黒塗りのリムジンに乗らされ、車内で運転手と思わしき人物にそう説明を受けたが、残念ながら日本で平静平穏に生きていた一般人女性にはマフィアと言われてもいまいちピンとこない。しかし自分が今拉致され、この男の機嫌次第でいかようにも処遇が決まることを理解はしている。
どうやらそのヴァリアーのボスである男、ザンザスはすらりと長い足を思いっきりテーブルに載せて、玉座にふんぞり返っていらっしゃる。それはそれは偉そうである、実際に偉いのだろうが。ちらりと視線を向ければ、少し長い前髪からワインレッドの瞳がこちらを射抜く。威圧的な態度こそが彼に相応しく、また魅力でもあるのだろう。顔もよく見れば実に整っており、随分もてそうな容姿だとは素直に思った。

「食わねーのか」
「見ず知らずの人の施しは生憎と受け付けておりませんので」
「…ほう」

次々と給仕の人が運んで来るイタリア料理に内心唾を飲み込むほど手を付けたいが、ここで受け入れては彼の思うツボだ。ここはぐっと堪えてザンザスに目を据えると、向こうはまるで希少生物を見るかのように目を細めている。
ところが次の瞬間、情けなくも鳴った腹の音で静寂は破られた。

「……っ!」
「ぶっははは!!つくづく馬鹿な女だ」

恥ずかしさに自然と顔が赤くなる。ああ、もうままよと自棄になりながら、フォークで乱暴にぐさりと肉を刺す。ザンザスは既に皿を平らげており、自身の瞳と同じ色のワインをゆらゆらと味わっていた。

暴君で知られるザンザスが一切癇癪を起こすことなく、日本人の女性と夕食を取っているという非常事態を部下が知らないはずもない。このヴァリアーでは異様ともいえる光景を、幹部たちは隣室で驚きながら聞き耳を立てていた。

「うしし、マジであの女なにもん?ヴァリアーへ偵察にきたスパイとか?」
「むっ ボスをたぶらかす女は俺が成敗してやる!…しかし、妖艶だ」
「ムッツリは黙れよ。こんなときのアホのロン毛隊長は何やってるわけ。こんなおもしれーことが起きてるのにかわいそー」
「まあ、ベルちゃん!せっかくボスが素敵な女性を連れてきたんだから、茶々入れたらだめよお」
「そんなことしたら王子が死ぬから」
「Aランク報酬分であの女の情報を売ろうか?」

もはや隣にも聞こえるのではないかと思うほど喧しい談話室に、任務帰りのマーモンがふらりと入ってくる。その言葉にベルは興味をそそられたようだったが、すぐに思いなおして断った。

「どうせボスの気まぐれじゃん?たとえお気に入りになったとしても、そのうち分かるっしょ」
「それもそうね♪ お披露目が楽しみだわ〜」
「う"ぉおおおい!!!何がどうなってやがる」

騒がしい怒声とともに、銀色の髪が真っ赤に染まったスクアーロがドアを蹴破って現れる。すぐに他の幹部たちは彼がまたボスの不興を買って、ワインのグラスを投げつけられたことを悟った。どうやらせっかくのボスと女性の歓談している最中に突入したらしい。相変わらずタイミングが悪いやつだと誰もが同情した。


突然誰か銀色のロン毛の男が大きな声で入ってきたと思ったら、次の瞬間にはザンザスの手元からグラスが消え、男の人はまともにその攻撃を受けている。

「何しやがる!!!」
「失せろ、カス」

当然男は怒ったが、わずかにザンザスが滲ませた怒りに、小さく舌打ちをして部屋から大人しく出ていった。いったい何が起きたのやらと不穏な空気に戸惑ったが、これがもしやマフィアの日常茶飯事なのかと勝手に結論付ける。何事もなかったかのようにザンザスは再び差し出されたワイングラスをもぎ取り、わたしが食事を終えるまでじっと監察していた。あまりにも見られていることにもはや顔が上がらず、どことなく落ち着かない。

「テメーに決めた」
「えっ?」

イタリア人のくせに主語が抜けているから困る。突然宣告された言葉にこれから自分の身に何が降りかかるのか、もはや容量オーバーの出来事になまえは怪訝に顔を顰めたのだった。


(111222)

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