彼はいつだって音も無くやってくる。

半分寝たままの眼(まなこ)が、隣に横たわる上半身裸の男を捉えて一気に覚醒した。声にならない悲鳴をひとしきり上げた後、未だバクバクうるさい心臓をなんとか落ち着かせる。眉間に皺を寄せたまま眠る彼、ザンザスのさらさらとした前髪を掻きあげると、ところどころに痛々しい古傷が姿を現した。
わたしはザンザスのことをよく知らない。何よりその手の質問をすればはぐらかされるか、不機嫌な顔でだんまりになってしまうから聞きようがない。
最初の頃こそ不安に思ったが今ではこれでいいと思っている。きっといつか話してくれる、わたしはその訪れを待てばいい。

だからといって不意打ちは止めて欲しいというのはわがままだろうか?しっかりと玄関の鍵は閉めていたはずなのだが、どうやって侵入したのだろう。首を傾げたが考えたところでわたしの想像に収まる彼ではない。

(ま、いいか)

それよりもどうやらこれほど深く眠り込んで、お疲れの様子であるザンザスのためにも、美味しい朝ごはんを用意してあげよう。そうだそれがいい。



スリッパがパタパタとせわしなく動く音でザンザスはようやく重い瞼を開いた。まだ機能していない頭をもたげて、ここはどこだと呟いてから気づいた。そうだ、日本へ出張の用事が出来たから昨日の便で一足先に赴いたのだ。足は自然と彼女の家へと向かっていて、なまえの寝顔を見ていたら自分も眠気に襲われて。そこから記憶が無い。

「あれ、ザンザス起きた?」
「……ああ」
「待っててね。いま朝ごはん作っているから」

にっこりと微笑んで顔を近づけるなまえを前にしていたら、手が勝手に動いた。力を入れてしまえば折れてしまいそうな腕を引き寄せて、後ろから抱きこみベッドに転がる。驚いて固まっていたなまえは、ザンザスが首筋に唇を寄せたことで我に返り、抵抗するも後の祭り。ヴァリアークオリティを前にしては手も足も出ない。

「もう、ザンザス!これじゃあお料理出来ない!」
「今日くらい付き合え」
「ええ?いつも付き合ってるでしょうが」
「いいんだよ」

今日は俺の誕生日だ、そういったらこの顔はどう変わるだろう。きっと最初は豆鉄砲を食らったようにびっくりして、次に教えてくれなかったことに怒って、そうして最後にとびっきりの笑顔で言ってくれるはずだ。


おめでとう


(111010) ボス誕

誕生色はオーカー #ba8b40
特徴:あくことなき探求心の持ち主
色言葉:知力・先見の明・人間の理解

だそうですよ!

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