「テルスヘリングはいつも美味しいお菓子を用意してくれるからね、今日は僕も美味しい紅茶を振舞おうかなって思ったんだけどどうかな?」

新しい傲慢の騎士、テルスヘリング主催のお茶会が開かれるようになって数日。いつものように引きずられて来て、寝ぼけ眼でマフィンをぱくついているラニは、嬉しそうに発言したグロリアをちらりと横目で見た。起こしに来た時、今日はきっとテルスヘリングが喜んでくれる準備をしてきたんだと笑っていた彼を思い出す。次にテルスヘリングに視線を向けると、今にも、本当か!!と言って椅子を蹴って立ち上がりそうな様子だ。

「ほ…本当か!!」

思った通り、勢い良く立ち上がったテルスヘリング。その際両手をついた机がガタンと揺れて、ラニはゆらりと揺れた目の前のケーキスタンドをそっと押さえた。

「お茶会の主催はテルスヘリングだけど、ほら、これからはもっとたくさん人を招きたいでしょ?だから僕も、振る舞う側に入れてほしいなって」

お茶会の参加人数はまだ、テルスヘリング、グロリア、ラニの三人。

「僕らは新米の大罪の騎士だからね。バタバタしてて薄れてきたお茶会の習慣を、取り戻す計画を立てよう!テルスヘリングのお茶菓子はこんなに美味しいんだから、僕らだけ招かれていたら勿体無いよ!ねぇ、ラニ」
「ん、そーだねぇ」
「気のないフリして。でも手伝ってくれるってわかってるよ」
「そ、それは名案だ、グロリア!!我ももっと沢山の…騎士は勿論、国民にも、我のお茶会に来てほしいと思っていた!」

キラキラと目を輝かせるテルスヘリングに、グロリアも嬉しそうに笑い、ラニは顔を伏せた。

「じゃあ僕の初めての紅茶は、二人に」

そう言ってグロリアは、藍の花模様の入ったティーポットと、三人分のティーカップ、それに茶葉の入った木箱を取り出す。

「これは見事なティーセットだな!グロリアの物なのか?」
「ふふ、頂いた物さ。ティーコージーもあるよ。綺麗でしょ?茶葉は、今日はストレートにダージリンを用意したんだ」

まずは沸かしたお湯でカップもポットも温める。その後、ティースプーンに三杯分、茶葉を取ってティーポットに入れた。

「お湯は勢い良く、ね」
「茶葉を踊らせるのだな!」
「そう!これで暫く蒸らすから、僕らも踊る?」
「おじさんはパスね」
「グロリア!冷める前にティーコージーを被せなければ!」
「そうだったそうだった。砂時計も返そう」
「スマートじゃないね、珍しく」
「ラニも寝ないで皮肉言ってくれるなんて珍しいね」
「ラニも紅茶が楽しみなのだな!」
「ん、美味しいもの食べさせてくれるならもう少しだけ起きてるよ」
「もし寝ちゃっても起こすけどね」
「かく言う我も楽しみだ。グロリアは紅茶を淹れるのが得意なのか?」
「そうだね、元々好きだけど、テルスヘリングのお茶会に一枚噛みたくって、勉強してきたんだ。テルスヘリングは、お菓子作りも紅茶の淹れ方も、完璧みたいだね!」
「当然だろう!我も皆と楽しみたくて勉強したのだ!傲慢の騎士たる者、茶会の知識は心得ておかなければな!ふははは!」
「さすが、テルスヘリングのそういうところ、僕すごく好きだよ」
「それは光栄だ!しかし、砂時計というのは風情のあるものだ。あと少しに見えてまだ落ち切らない。三分……長い」
「の〜んびり待とうよ。二人はマイペースな大罪の中でも忙しく働くタイプなんだしさ」
「「落ち切った!!」」
「おじさんの話聞いてる〜?」

さらさら落ちる砂時計の砂を、今か今かと凝視していたテルスヘリングとグロリアが同時にわあっと歓声を上げた。せわしい二人には、の〜んびりとした今のラニの言葉は届いていなかったようだ。

「濃さが均一になるように…と」
「グロリア、最後の一滴までだぞ!」
「ゴールデン・ドロップだね」

紅茶を回し注ぎ、最後の一滴まで残さず淹れてしまう。琥珀色のダージリンの雫が波紋を作った。

「できた!」
「ラニ、できたよ!」
「一番に飲むのは、二人じゃないの?」
「僕らもてなす側だよ」
「そうだ!貴様はもてなされているのだ!」
「じゃあ、お言葉に甘えて」

じっと見つめられて、ちょっぴり飲みにくいな〜と思いながらもカップに口をつけるラニ。

「どうかな?!」
「どうだ?!」
「うん、美味しいんじゃないかな」
「客人は増えるだろうか?!」
「増える増える」
「やったねテルスヘリング!」
「やったなグロリア!」

誇らしげな笑顔のテルスヘリングと、締まりのない笑顔のグロリアを見て、ひと段落着いたのを確認すると、ラニは淹れたての紅茶の香りに包まれながら、眠気に身を任せるのだった。










お茶会トリオが最初の頃は勉強しながら試行錯誤してたら可愛いなと思った話。




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