オトギノクニの若者達がこぞって憧れる職業、それは騎士。国を守る為に、攻めてくる周辺諸国と勇猛果敢に戦う騎士団員を、一度は夢見た者も多いだろう。しかし騎士団に入る為には、厳しい入隊試験を通過しなければならない。一握りの、選ばれた者だけが騎士団に入る事を許されるのだ。

多くの入隊希望者をふるいにかける入隊試験は、戦いの素質を見る実技の試験と、人柄を見る面接に分かれている。基本的には、どちらかが欠けていては、騎士団には入ることができないのである。例外として、隊長である美徳、大罪の騎士が認めた者は、特に何の審査もなく騎士団に入隊することができることもあるのだが、それは、あくまでも例外。





「グロリア・キングスコートです。よろしくお願いします」

面接を担当する色欲部隊の副隊長は、元気な少年の声に、書類から顔を上げる。桃色の髪から伸びる特徴的な高い耳は、彼の慕う色欲の騎士を彷彿とさせて、少しの嫉妬を覚える。しかし私情を持ち込んではいけないと小さく頭を振り、副隊長はグロリアを真っ直ぐ見つめる。

「グロリア・キングスコート。面接を始める。…と、その前に。お前の国民登録はグロリア・スウィーニーとなっているようだが」
「あ、それは…僕の母のファミリーネームです。早くに父を亡くし、母は旧姓を名乗っていたので。ただ、亡くなった父は騎士になることをずっと夢見ていたので、自分がその意思を継げれば、と思い…騎士の登録は、できればキングスコートでして頂きたいのですが」
「なるほど。騎士の中には偽名や芸名を名乗る者もいる。好きにすると良い。ただ、まだ騎士になれると決まった訳ではないがな」

副隊長は、スウィーニーの文字を二重線で消して、キングスコートとメモ程度に走り書きする。良い話で面接官を懐柔しようとする受験者はたまにいる。本音か方便かを見分けるのも面接官の仕事だ。副隊長は目付きを厳しくする。グロリアは、まあそりゃそうだという顔をしている。副隊長の目付きが変わったのもお構いなしだ。実技の試験では、歳の割りによく訓練された剣術で、飛び抜けた腕というほどではなかったが、まあ合格点といったところ。騎士団の副隊長相手に全く緊張した様子が無いように見えるが、よっぽど実技に自信があったのだろうか?

「私の面接で、聞きたいことは一つだけ。何故騎士を志したのか。意気込みをアピールしてみろ」

どこそこの隊に憧れの騎士がいる、国もしくは自領の姫を守りたい、国に貢献したい…お馴染みの答えをいくつか思い浮かべて、副隊長は試すような顔でグロリアを見つめる。グロリアは一瞬驚いたような戸惑ったような顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。

「志したきっかけは、先程申し上げた父のことです。全く戦いの才能がなく、穏やかで、騎士には向かない人でしたから、騎士にならないでくれて良かったと、僕は思ってます。それでも父も、そして母も、少し無念があったようでした…それに、いつの間にか僕の夢も、騎士団に入ることになっていました。でも今は、騎士団に入ることではなく、大罪の騎士になることが目標です」

副隊長は少し眉間にしわを寄せる。ほとんどの騎士は、隊長になることを目指してはいない。世襲制の隊も多いし、隊長自ら後継を探したり育てたりする事も多い。そういう場合に、試験を飛ばして入隊するという例外が発生するのだ。隊長引退の際に順当な実力の騎士に引き継いだりということもあるが、自由人の多いワンダーランド領の大罪勢ではわりと起こりにくい。隊長は皆、自由奔放で、実力も飛び抜けており、周りに囚われないカリスマ性がある。なりたくてなると言うより、なるべくしてなるのだ。生意気なだけのグロリアには無理だろうと、副隊長は内心思ったが、グロリアは知る由もない。

「大罪の騎士に、か」
「はい!目指すのなら、半端ではなく、一番強くが良いなと、思っています」
「無謀な目標だ。非現実な目標は、目標とは言わない」
「そうでしょうか。ですが僕は、目標設定の話ではなく、意気込みをと言われたので、そのままをお話ししただけです」

ここまで、同じお題を出して、同じようなアピールを長々と聞き、時計を見てはもういい下がれ、と言うのを繰り返してきた副隊長は、この時、今日一番いらいらしていた。流れ作業がしたかったのではなくて、グロリアの態度が、大罪の騎士を舐めているような態度に思えたからだ。彼は険しい顔のまま、他の受験者と同じ言葉をグロリアに放つ。

「もういい。下がれ」
「ありがとうございました」

再び笑顔で元気に挨拶したグロリアに、副隊長はなんだか得体の知れないやつだなと、呆れを通り越して、少し興味が湧いていた。

「ああ!そうだ、悪い、もう一つ。聞いてくれと頼まれたことがあったんだ。希望する部隊はあるか?」

大抵は話の中で、どこ部隊の誰に助けられとか、あの隊長の元で働きたくてとか、そういった言葉が出てくるので、別個で聞くことはあまりないのだが、配属先のある程度の参考にと、面接官はそれを聞かなければいけないのだ。立ち上がっていたグロリアは副隊長に視線を戻し、また笑う。

「特にありません。どの部隊でも、やることも、目指すところも、変わりません」
「……そうか。下がれ」
「はい」

ぱたんと閉まる扉を見つつ、少し私情が過ぎたか、と、反省。しかし、まあ、ああいう目的と目標がはっきりしているやつはわりと騎士向きかもしれないな、ただ色欲には来てほしくはないが。そんなことを思いつつ副隊長は、将来彼の心酔するメイメイ色欲隊長を倒し下克上することも知らず、グロリア・キングスコートの名前の横に合格の判子を押すのだった。




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勝手に試験とか妄想してすみません。問題あればひっこめます。面接短っ!って感じです。隊長はまともな面接できないタイプの人もいそうなんで、苦労に定評のある各副隊長がやってそうだな〜って…

前副隊長はグロリアが隊長になった際に辞めてます。てめーほんとにやるとは…って感じ。
実技試験では飛び抜けて目立っていないですが、剣は自己流なので、騎士団に入ってからメキメキ成長します。




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