星の綺麗な夜だった。

エステリアは強めのお酒を持って、珍しく騒がしい集団から離れ、欄干にもたれかかっていた。波の音に耳を澄ますと、仲間達の声は遠くなって、火照っていた体が落ち着いてくる。月明かりに照らされて、遠くにガレオン船が見えた。

「…珍しいな、今日は飲んでいないのか…?」

静かな声の方にゆるゆると目を向けると、片手に酒を持ったビッグマンがいた。渡されただけで、口をつける気はなさそうだ。

「…ビッグマン」
「………泣いてるのか?」

エステリアは、表情こそ真顔だったが、目元は濡れているようだった。滅多に見ない彼女の涙に、ビッグマンは隣に並んでもたれながら、どうした、と聞いた。

「今、遠くをガレオン船が通って行ったんだ。それだけ」

それだけ。それだけの言葉で、彼は大体を理解する。かつてのヴィンセント船長の船は、世界で一番立派で綺麗なガレオン船だったとは、エステリアが酔って気分が良くなった時に、一番よく話す話題であった。エイルクォーツに寄って、色々思うこともあったのだろうと、ビッグマンは考えた。

「酒を飲んで泣きたくなるのなんて久しぶりだ。感傷に浸るなんてあたしらしくないよな」

エステリアは持っていた酒を一気に呷った。そしてビッグマンの持っていた酒も、奪うように自分のものにする。飲む気のなかったビッグマンは、ため息を一つついただけで、それを許した。

「たまには、そんなこともあるさ」
「だよな」
「普段笑っている分、泣きたい時は泣けばいいんじゃないか。涙を堪えることは、健康に良くない」

医者らしい意見を述べたビッグマンに、エステリアは一度ふにゃりといかにも酔った笑顔を浮かべた後、眉を下げ泣き出した。声も堪えず、ぼろぼろ流れる大粒の涙を拭うこともせず、ただただ泣く姿は、幼い子供のようだった。ビッグマンは少し困った後、エステリアの頭を撫でた。エステリアは泣きながら何か話しているようだが、聞き取れない。とりあえず頷いて聞いている姿勢を見せると、奪った酒を呷り、また泣いた。忙しい子だ、と思いながらも、何をすればいいかわからないビッグマンは、ただ頭を撫でてやり続けた。



しばらく泣き続けた後、エステリアは急に泣き止んだ。ビッグマンが落ち着いたか、と声をかけようとするのと、エステリアが青ざめた顔で吐きそう、とつぶやき上半身を欄干から乗り出したのは、ほとんど同じタイミング。元々かなり飲んでいたのか、それとも雰囲気でいつもより早く酔いが回ったのか、とビッグマンは妙に冷静に考えた。

「気持ち悪い…ビッグマン、くすり…」

死にそうな声を出したエステリアが、あまりにいつも通りだったので、ビッグマンは少しホッとして、薬を取りに向かうのだった。



Twinkle twinkle little star,
I hope that he is smiling next to you.




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