夜に浸かった部屋。液晶の光だけがその浸食を妨ぎ、押し返す。
机の端に座り足を広げる静雄の身体は、すぐ背後――というよりも腰後――にあるノートパソコンによってじんわりと照らされている。綺麗だ、と、新羅の胸の中で思わず洩れる深い嘆息。爪の短い指は山のないなだらかな胸を執拗に撫でた。
「あっ、はぁ、は…ふあ!」
指が動き、胸で二点だけツン、となっている部分に触れる。右も左も親指で、まるでそこを隠すかのようにして指の腹全部を押しつけてぐりぐりと捏ね回す。
服は全部脱がせた。
半端に服を着ていたほうがそそるだのなんだのというのは、その人間の全裸に魅力が足りないからだ。本当に美しい身体には何かを付けたいとは思わない。第二次成長期を終えた静雄の体を見て、そう気が付いた。
(ああ、綺麗だな)
濃紺に近い黒の闇に浮かぶ、薄紅に近い白い肌。幾度となく同居している女性に白と黒のコントラストは素晴らしいのだと言い続け、実際にもそう思っている新羅にとって、この空間は芸術品に近かった。
指を離す。
暖かな白の中にぱっと鮮やかな紅が表れた。
これもまた、綺麗だ。
「しん、ら…ぁ、」
静雄が天井に向けていた顎を引き、湿った瞳を睫を震わせながら開けた。
「なにか…言え、って」
「綺麗だよ、静雄」
言うのは心の中だけで。
自分の声なんてこの空間を壊す邪魔者でしかない。
言葉なく優しく微笑むと、眼鏡を外しすぐ傍にあったに椅子に腰掛けた。目の高さにちょうど静雄の開かれた下半身。完全に起き上がった、先っぽにぷくんと透明な粘液をくっつけているそれを口に含むと、また甘い声が洩れた。
「っ、ん!ぁ、はっ、あぁ…はぁっん、」
水音は立てないよう慎重に丁寧に。全体にくまなく舌を這わせ、声が一段と高くなったところで口を離した。
「静雄」
ああ、やはり、自分の声は場違い過ぎる。
「こっからは静雄がひとりでやって」
「っ…!」
恥ずかしさに真っ赤になった顔とは裏腹に、たちまち溢れた先走り。
「…わ、かった」
新羅が眼鏡をしたのを合図に、静雄は新羅の唾液と止まらない先走りに塗れた自身を掴んだ。
初めは小さな往復をゆっくり。それが次第に大きな往復になり動きが速まる。喘ぎ声が絶えなくなり、恍惚とした声色に変わり、変化の度に辺りの温度が上がっていくようだった。
ぐちゅぐちゅという水音も大きくなるが、今度は気にしない。これは静雄が立てている音だから。
「あっ、あ、イキ…そ…!ん、あっ、!」
全裸体が赤みを増してゆく。
快楽に支配されていても欲望に溺れていても、新羅はその体を美しいと思う。何度も傷ついているなんて嘘のように痕ひとつなく。神秘だと言えば、静雄は怒りと悲しみがない交ぜになった複雑な顔をするだろう。
でも、神様はきっと君の美しさを自分だけの秘密にしたかったから、君が誰よりも傷つく道を与えたんじゃないかと、君の神秘はそういう神秘じゃないのかと、思わずにはいられない。
「ぁ、あ…しんら、新羅…!」
「本当に、綺麗だね…」
「あっ!―――ッぁあ!」
宙をさ迷っていた素足がびくんと強ばり、爪先がぎゅっと丸まった。力の入れすぎで更に白くなった足の指。汗の玉が貼りつき色香を匂わせる内腿。
その中心で白濁は零れ続けた。新羅は膝の上に落ちたそれを指で掬うと、しっりと汗ばんだ体に触った。