街が呼んでいる。謳うように。囁くように。
 ただ静かに、呼んでいる。


 流れゆく雑踏の中から、こいつを引き上げることばかり考えるようになったのはいつからだったか。
 この街の、目まぐるしく変わる景色と無限の可能性からこいつの興味を逸らすなんて、はなから無理な話だったんだろうか。

 はじめは一緒に街を歩けるのが嬉しかった。
 一ヵ月を過ぎたあたりでこのままではいけないような気がしてきた。
 二ヵ月を越えた時にこいつを呼んだ事を後悔し。
 三ヶ月をむかえるあたりでようやく焦りを覚え。
 一年の半分が過ぎようかという今、『こいつを引き上げたい』という《願い》は《使命》になっていた。 こいつをこの街に呼んだのは他でもない俺自身だ。
 なのに、今は後悔しかしてない。
 俺はただ満たしたかったんだ。
 こいつの心や脳ミソを、俺が教えた情報から創りだした街で。俺で。
 頼むから、もうこれ以上コイツの手を引かないでくれ。
 お願いだから、コイツを呑み込まないでくれ。
 どこにも連れていかないでくれ。
 俺から取らないでくれ。
 いなくならないで。
 忘れないで。


 忘れないでくれ――俺を。
 また昔みたいに、俺を求めてくれよ。帝人。


 気が付いたら、この流れの中に身を投げていた。
 これで俺は、君の世界(この街)の一部になれる。






世界が終わる一秒前



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