シシオ君
 ストーカー
をしながら
 ストーカー
被害に遭う



 ここは首無学園高等部の校舎内にある、《首無学園相互ではない扶助協会》と書かれた看板が掲げられた部屋の中。
 部屋の中央には安物のテーブルが二つ並べて置かれ、パイプ椅子が両側に二つずつある。部屋の奥右側には木製の本棚が、反対側にはぼろぼろになったソファーがあるだけの至って殺風景な内装。
 本棚の横には別の部屋へ繋がる扉があり、その向こうは給湯室になっているのだが、扉は現在は閉められていた。入り口正面の壁には窓があるが、こちらも今はカーテンが閉められている。
 そんな《首無学園相互ではない扶助協会》――通称《首無金融》の部室の中にいるのは、三人の人物。
 まずは鋭い目をした金髪の少年、静雄君改めシシオ君。シシオ君は四つある椅子の一つに腕を組んで座り、下を向いている。シシオ君の隣にいるのは弟の幽君で、彼は無表情で向かいの席を見ていた。そしてそこにいるのが、

「張間美香さん、でしたね」
「は、はい。よろしくお願いします」

 白い帽子を被った張間さんはやや緊張した声で言うと、小さな頭をぴょこりと下げた。帽子から出た茶色の髪がふわりと揺れ、再び上げられた顔はまさに美少女という言葉がぴったり。帽子と同色のシャツに包まれた身体は、とても中学三年になったばかりの子のものとは思えず、首から垂れる赤いネクタイに「お前そこ変われ」と言いたくなるものだった。
 そんな張間さんに、幽君は無表情のまま話し掛ける。

「依頼を正式に受ける前に、ひとつ確認させて下さい」
「なんですか?」
「ウチの――《首無金融》のシステムは、どこまでご存じですか?」
「えっと…依頼を達成してもらう代わりに、こっちからも何か代償を支払うんですよね。倍返しで。倍率はランダムだって聞いてます」

 あってる?という風に可愛らしく小首を傾げる張間さん。素材が特Aランクの美少女なだけに実際かなり可愛い――いや、物っ凄い可愛い仕上がりになってますよ。

「いえ、ランダムではありません。ちゃんとした基準があって、それを基に倍率を決めてます」

 しかしながら幽君は相も変わらず無表情。可愛い張間さんに赤面も動揺もしていない。
 だけど実はそれ、お互い様だったりする。
 この鉄壁無表情の幽君、アイドル顔負け――を通り越して、世のアイドルたちが土下座したくなるような美少年であった。年二回行われる《ミス首無学園コンテスト》では、男子ながらランクインするという、名誉なんだか不名誉なんだか分からない経歴を持っている。
 何故男子がミスコンにランクインしているのかというのは、主催が節操なしだからです。色々と。だけどこれもまた今は別の話。
 故に、大半の女の子は幽君と話せば真っ赤になってそわそわするのだが、張間さんは正面で向かい合っているにも関わらず、まるで幽君を気にする様子がない。

「あ、そうなんですか。じゃあ、返済日が《首無金融》の独断で決められて、一方的に返済を求められるっていうのもデマなんですか?」

 席に着いてから二度目、張間さんの可愛いお顔が傾く。

「それは本当です。貸しはこちらが返してほしいと思った時に、必ず返してもらいます」

 席に着いてから一貫して、幽君は無表情。

「まあ、でも…重犯罪の片棒つがせたり、家族とかまでの人生破産させるような事はしねぇから。安心しろ」

 席に着いてから初めて、シシオ君が喋る。
 今まで空気だったけど彼、ちゃんと二人の話を聞いてたんですよ。下を向いてたからって寝てたわけじゃありません。今は顔を上げて張間さんを見ています。
 それにしても、初発言が何やら問題発言なような気が。

「あの…軽犯罪の片棒をかつがせて、本人の人生を破産させるくらいはするぞ、って言ってるように聞こえるんですけど」

 シシオ君と幽君、無言。
 張間さんも無言。

「それを踏まえて依頼をすると言うなら、我々《首無金融》は依頼達成に全力を尽くさせていただきます」

 幽君が沈黙を破り話を上手く纏めました。さすが飛び級している子は対応が早いですね。
 ちなみに幽君は年齢的には高校一年生ですが、学年は三年生です。もちろん、クラスメイトのシシオ君も三年生。年齢的にも。

「問題ないです」

 はい、問題ないです。
 ではなくて、張間さん実に素早い返事です。人生掛かってるのにいいのでしょうか。

「俺、飲みもん入れてくる」

 シシオ君も会話からの離脱が早い事で。シシオ君は何だか居心地が悪そうな顔で立ち上がると、本棚横の扉に手を掛け、後ろを振り返った。

「張間さん。コーヒーと紅茶と緑茶とオレンジジュース、どれがいいですか?」

 聞いたのは幽君だった。

「じゃあ、紅茶を」
「紅茶お願い、兄さん」
「え?――あ、ああ。コーヒーな、分かった」
「紅茶だよ兄さん」
「わ、わりい。紅茶、だな。紅茶…紅茶…」

 なんだか落ち着かない様子で、シシオ君は扉を開け給湯室へと入っていく。扉が開け放したままなのは話が聞こえるようになのか、単に閉め忘れただけなのか。
 幽君はしばし給湯室の方を見つめ、また無表情で張間さんに向き直った。

「それでは、依頼の内容を聞かせてもらえますか?」
「助けられるようにしてほしいんです」
「助けられるように、してほしい?」
「はい。私、助けなきゃいけない人がいるんです」


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