ヒトが流れている。川のように。雲のように。
 ただひたすら、流れている。


 流れゆく雑踏の中に、君を探してどれくらいが経ったのだろうか。
 この街の、このヒトの群れとビルの樹海の中で特定の誰かを探すなんて、どだい無理な話だったのだろうか。



 はじめはすぐにでも見つけられると思っていた。
 三日目になって、これは本腰を入れなきゃいけないのだと気付いた。
 一週間が過ぎた時には初動捜査が遅すぎた事を後悔し。
 十日を越したあたりでようやく焦りを覚え。
 三十と一日を数えようかという今、僕の中で『君を探す』という《非日常》は《日常》になっていた。 
 あの人は言っていた。《非日常》も三日続けば《日常》になると。
 なら、「ちゃんと探さなきゃ」と思った時点で、君がいないという《非日常》は《日常》になっていたのだろうか。
 ああ、そうだ。そうだったのかもしれない。
 僕は《非日常》が《日常》になってしまった事に恐怖を覚え、新たな行動に出たんだ。それから常に、自分が手にした《非日常》を離さないようにしてきたんだ。
 そして今も、僕は《非日常》を求めている。
 流れゆく雑踏の中に、君と再会するという《非日常》を探して。



 僕が探しているのは、君ではなかったんだ。






頬を掠める残像




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