※エロ有り
※軽い暴力表現有り
細い細い弧を描く黄金色。
それは美しい美しい三日月。
だけど月の本当の形は真ん丸で今は隠れて見えないだけ。
自分の服を掴む、小刻みに震える手。そっと手を重ねれば熱すぎるほどの熱が伝わってくる。見た目は武骨だか触れれば思いの外滑らかで、だが美しいと称するには傷つきすぎている。
臨也はそんな静雄を手を握り、乱暴に服から引き剥がした。
「今の何?抵抗?それとも助けを求めたの?まさか誘ったわけじゃないよね?」
手の熱さと相対させるかのような酷く冷たい声。だが顔は笑みをつくったまま。
再び立ち上がった臨也は、今度は静雄の身体を容赦なく蹴飛した。
「かはッ!」
「ねえ、痛い?」
臨也が蹴った事で横向きになった静雄は、くの字になって腹を抱え咳き込んでている。目尻にはうっすらと涙。痛がっているのは明確だった。
それでも質問は繰り返される。
「俺に蹴られて痛かった?苦しい?」
また一発。次は肩を蹴り仰向けにする。
「今どんな気分?」
胸の辺りを踏み付けるようにして足を置き、ぐっと体重を乗せれば、苦痛に歪む主人の顔。
「言い忘れてたけど、あの薬副作用で一時的に筋肉が弛緩するから」
だから痛いでしょ?と、足を上げまた踏み付けた。
「ぅぐっ!」
「痛いかどうか聞いてるんだけと?」
「…ぐ、がっ、はっ、ん…ぁ"」
「ひょっとして、俺に踏まれて興奮してるの?」
苦しげな呻きの中に紛れた明らかに色を孕んだ声。目を静雄の下半身に向ければ、ソレははっきりと反応を示していた。
「普段力を行使する側の人間はMが多いって言うけど、君もそのタイプなのかな」
するすると足をワイシャツの中へ滑らせて、すでにぷっくりと熟れた胸の突起を爪先で軽く押す。
「ひうんッ!」
それだけで静雄の身体は大きく弓なりになり、
「ふぁ、あっぁあああ!」
「え、今イッちゃった?」
足を静雄の股間にあてれば、先ほどまであった質量は失われ、代わりにぬるりとした感触が足裏に伝わってきた。
(まさか本当に利くとは思わなかった)
両腕で顔を隠し、まるで幼い子供のようにひぐひぐと泣きだした金髪の男を見て、臨也は笑顔を崩し顔をしかめた。
静雄は臨也に自分の事など何も知らないだろと言った。
だが臨也は知っていた。静雄が人間離れした怪力を有している事も、彼がその力を使って何をしてきたのかも、その事を彼がどう思っているかも。他にも色んな事を臨也は知っていた。
教えてもらったから。部屋の隅に転がる桃色の液体を垂らしたビンをくれた人間から、“平和島静雄”という“化け物”について散々教え込まれたから。
「化け物…ね」
ちっ、と小さく舌打ちをすると、足をどかし一旦その場を離れる。書見台の上にあった、飲みかけのミネラルウォーターを取ってくると、床が畳なのも構わず静雄の頭にそれを掛けた。
「完全に理性を飛ばされると意味ないんだよね。君には、ちゃんと知ってもらわなきゃいけないんだから」
空のペットボトルを顔のすぐ横に落とせば、馬鹿みたいにびくつく長身。静雄は消え入りそうな声で何かを呟いたが、黒のコートを脱ぎ、それで金色の頭ごと塞ぎ黙らせた。
そして震える身体に覆い被さった。
「だから俺は謝らないよ、シズちゃん」
身体が熱い。なのにぞくぞくする。
気持ち悪い。なのに、気持ちいい。
なんだこれ。なんだこれ。誰か助けて。助けて…。
「助け……く…」
必死の思いで絞りだした言葉。しかしそれは何かの布によって遮断された。布は顔全体を包むように被せられ、そのため呼吸の度に自分の熱い息が顔にかかる。
苦しい。熱い。苦しい。熱い。
静雄の思考はすでに飛ぶ寸前だった。しかし幸か不幸か、髪や腕から伝う水の冷たさがギリギリのところで意識を繋ぎ止める。
「――から――――い―。―ちゃん」
耳が声を捕らえる。脳裏に浮かぶは今日会ったばかりの黒ずくめ男の顔。
折原臨也。
尊大な態度にすべてを見透かしているかのような物言い。そして人を馬鹿にしたような笑み。
祖父はどうしてこの男を自分の付き人にしたのだろう。これは祖父の指示なのだろうか。
「あっ、や!」
ズボンに手を掛けられたのが分かり、慌てて足を閉じる。しかしそれは逆にズボンを脱がしやすくしただけで、呆気なく下着もろとも脱がされた。
「うわ。べったべた」
「やめ…みるなっ」
恥ずかしい。嫌だ。そう思うのに身体が動かない。それにどんどん身体が熱くなっていく。
何度もおかしな薬のせいだと自分に言い聞かせた。
「さっき出したばっかなのに、もうがちがちになってる」
「あっ!あっ、あ、…や、さわ…な、っ」
「こんなに先走り溢れさせながら言われても説得力ないよ。本当は気持ちいいんでしょ?」
「ちっ、が…ん、やめ、ろッ」
「なら力ずくでやめさせたらどう?」
それができたらとっくにやってる。でもできないからやめろと頼んでるんだ。
頭の隅ではそう思っているのに、言葉にできない。口から出てくるのは気持ちの悪い嬌声と情けない泣き声だけ。
臨也の手が静雄のモノをぎゅっと握る。たったそれだけなのに静雄の全身はぶるりと震え、幾らも扱かないうちに二度目の射精をした。
ロクに呼吸も整わないうちに両足を持ち上げられ、排泄にしか使ったことのない後孔に、ぬるりとした何かが触れる。
本能が警鐘を鳴らした。
だがゆるんだ思考はすぐに肉体へ指示を出せなかった。
激痛。
「いぎィッ!」
「力抜いて。でないと全部入んない」
穴だけではなく身体全体を裂かれていくような痛みに、思わず唇を噛んだ。口の中に鉄の味が広がる。鼻には血の匂いが届く。
(も、だめ…。頭が…ぼーっと、してきた)
「ねえ、痛い?」
(痛い)
「苦しい?今、どんな気持ち」
(苦しい。怖い。やめてくれ)
「ねえ、シズちゃん」
不意に呼ばれ、静雄は僅かに目を開けた。
しかし見えたのは黒色だけ。意識はもう消えかけていた。
「俺――君に――――て――げる――から」
耳が声を捕らえる。だが静雄はもうその声が誰の声か分からなかった。
「だから――――れないで」
世界が黒から黒にフェードアウトする。
「約束――したから」
すべてが闇に包まれる前、静雄は誰かの顔を見た。目を細め、口角を上げ、それぞれを三日月型にした、まるで作り物の仮面のように笑う顔。
だがそれはすぐに真っ暗闇に消えた。
「…………くら」
三つの三日月は未完成の笑みかな
2010.7.11