むかしむかし、日本のとある場所に首無市(くびなし)という学園都市があったそうな。
 二のつく次元によくある何でもありな学園都市で、いつも何かしらの事件が起きてるそうな。
 そんな首無市の中で一番のマンモス校の首無学園(くびながくえん)も、ラのつくノベルによくある何でもありな学園なのだとか。
 そしてそこでもやっぱり、いつも何かしらややこしい事が起きてる――かもしれないのう。



シシオ君
たくさんの仲間たち




 ズンズン歩く。
 ビクビク避ける。
 さらにズンズン歩く。
 さらにビクビク避ける。
 学業という名の労働から解放された学生達で溢れる廊下にあるまじき擬音と動詞。
 しかしこれは事実で真実で、よって今、首無学園高等部の一階廊下は恐怖に包まれていた。

「うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ」

 恐怖と人の輪ならぬ人の壁の中心にいるのは、黒の学ランに身を包む金髪の少年。
 少年の名は平和島静雄。
 静雄君は一応このお話のヒロイン――そう、ヒロインだったりする。男だけど。

「兄さん苛々するのは分かるけど、もう少しゆっくり歩こう?」

 そんな静雄君の隣に並んで歩くのは、白いワイシャツにネクタイという出で立ちの、どことなく静雄君に似た黒髪の少年。
 こちらの少年の名は平和島幽。
 幽君は静雄君の正真正銘本物の実の弟さん。だけど彼は頭がいいので飛び級をして、現在兄の静雄君と同じクラスで席を並べている。
 でもそれは今はあまり関係の無い話。

「苛々なんてしてねぇ」

 いや、どう見ても苛々してます。と幽君は思うのだが、というか廊下にいる生徒全員が思ったのだが、みんな彼の事をよく知っているので誰も口にはしません。
 人工的に作りあげた金髪に相手を射ぬくような鋭い目、細い眉は釣り上がり、うぜぇを連呼する大きな口からは犬歯がちらちらと顔を覗かせている。それが静雄君の外見だった。
 多くの生徒はそんな彼をまるでライオンのようだと言う。
 外見だけではなく、喧嘩が異常に強い事、怒らせたら手がつけられない事なども、そのイメージを定着させる要因となった。
 そして、ライオン=獅子。獅子みたいな静雄。シシ+シズオ=シシオ。なんていうお決まり計算を経て彼は今、首無学園の生徒たちの間で密かに《シシオ君》と呼ばれ恐れられていた。
 そんなシシオ君こと静雄君と弟の幽君がやってきたのは、一階廊下の一番奥にある部屋の前。入り口の横には《首無学園相互ではない扶助協会》と書かれた看板が、どこぞの捜査本部よろしく掲げられている。
 敢えて説明するならば――《首無学園相互ではない扶助協会》とは、依頼人から依頼を受けそれを達成する代わりに、依頼人にも協会側へ受けた依頼内容の数倍〜数十倍に値する何かを差し出してもらう――つまり、金を貸してくれと言ってきた人に金を貸して、その後貸した金の何倍何十倍の金を巻き上げるヤミ金のような事をしている部活の名称である。しかも返済のタイミングは完全に協会側の都合で決定され、何が何でも必ず完済させられるらしい。
 故に、《首無学園相互ではない扶助協会》は通称《首無金融》と呼ばれ、その名は《シシオ君》以上恐れられている。

「ここに依頼をしたら確実首が回らなくなる。首すら売り飛ばされるからだ」
「首ごと脳ミソをどっかに置いてきた奴しか利用しない」
「どんなに首ったけになった相手がいてもここにだけは相談するな。首だけになるっても付き纏われるぞ」

 などなど、悪い噂は星の数ほど。
 胡散臭いどころか犯罪臭がプンプンな部活だけど、ちゃんと学園公認の部室である。
 そんな《首無金融》の部室の前にいる静雄君と幽君。彼らが何故ここにいるかといえば、

「あ、あの……首無金融の方たち、ですよね?」

 どこからともなく、少女が一人現われた。

「私は、首無中学三年の張間美香と言います。お願いします私を助けてください!」

 少女は悲痛な声を発すると、静雄君と幽君に向かってがばりと頭を下げた。

「依頼か?」
「依頼だね」

 二人の少年は顔を見合わせ確認し合うと、

「取り敢えず、中へどうぞ」
「話はそれからだ」

 背後にあった扉を開け、中に入った。
 悪名名高き《首無金融》――その部室へと少女を招き入れた静雄君と幽君。

「あ、こっちの自己紹介がまだでしたね。俺は平和島幽。それから……ほら、兄さん」
「……分かってる。えっと、平和島静雄だ」

 彼らが何故そんなことをしたかといえば、

「張間さんの依頼は、たぶん僕たちが担当になると思う。だから、よろしく」
「…よろしく」

 彼らが《首無金融》に所属しているからだ。
 このお話は続くかもしれないし、続かないかもしれない。
 そんなおはなし。


 めでたしめでたし?



シシオ君
お通りいつも通り

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やっちまったぜオオカミさんパロ!
どうせ需要がないだろうからのんびり書いていこう。

2010.7.7

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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