※臨也さんが誰お前状態



 なにこれ。
 なんなのこれ。
 いったいなんなんですかこれ!
 そう叫びだしたいのを俺は必死に我慢していた。
 時は夏。
 場所は俺の事務所。
 そこにいるのは俺とシズちゃんで、二人並んでソファーに座っている。ああ、波江も事務所の隅の自分の席に座ってた。
 で、今俺たちがしている事は、

「ホント美味いな。このスイカ」
「…そう。よ、喜んでもらえてよかったよ」
「臨也は食わねえのか?」
「ああ…うん。俺、スイカ食べ過ぎるとお腹壊す体質だから」
「…………じゃあ、」
「いいよ。俺の分も食べてシズちゃん」

 仲良くスイカを食べていた。
 いったいどういう風の吹き回しなのか、今朝出勤してきた波江から真ん丸のスイカをひと玉貰った。しかもかなりでかい奴を。敢えて俺に差し入れをする事で遠回しな嫌がらせをしているつもりなのか、それとも俺に友達がいないと思い込んでひとりで虚しくスイカ食ってろという皮肉をぶつけてきたつもりなのかは分からないが、何にせよ絶対に一人では食べきれない量であることは一目瞭然だった。
 だから、波江に俺にも友達がいるんだという事を見せ付けてやる意味も込めて、シズちゃんに食べに来てもらった。
 が、失敗した。完全に失敗した。タイミングを間違えた。見栄なんて張らなければよかった。せせこましい自尊心なんかさっさと棄ててしまえばよかった。
 まさかこんな事になるなんて。

「おい、大丈夫か?腹痛くなったのか?」
「だ、大丈夫…だよ。うん…大丈夫。大丈夫だから」
「いや、全然大丈夫そうには見ないぞ」
「いいんだ、気にしないで」

 大丈夫だから。ともう一度言うと、シズちゃんはまだ心配そうな顔をしつつも新しいスイカに手を伸ばした。どうやら余程気に入ったらしい。
 悔しいが波江の持ってきたスイカは美味かった。甘くて瑞々しくて、真っ赤な身がぎっしり詰まった素人でも分かる上物中の上物。
 だかそんな事はどうでもいい。問題はスイカではなく食べる人間――つまりはシズちゃんにあった。
 彼は今、三角に切られたスイカを一切れ持っている。そして食べるのに邪魔な種を取ろうと、

「ん」

 舌を伸ばし、

「んっ、しょ」

 舌で種をほじくりだした。

(ああああああああっ!!)

 なにこれ!
 なんなのこれっ!
 いったいなんなんですかこれぇぇ!!
 シズちゃんがこんなスイカの食べ方をするなんて知らなかった。今日の今日まで知らなかった。俺、情報屋だよね?結構有名な情報屋だよね!こんな事なら波江がいる時になんて呼ばなかったのに!

「空気読め波江。頼むから空気読んでくれ」
「臨也今、何か言ったか?」
「う、ううん!何もっ」

 ああ、スイカが瑞々しすぎてシズちゃんの唇が大変な事になってるだけど。スイカが真っ赤すぎてシズちゃんの唇が大変な事になってるんだけど。同じ事二回考えちゃったんだけど。っていうかもう同じ事しか考えられないんだけど。

「ごめん。ちょっと仕事の事で思い出したことがあるから、波江の所行ってくる」

 限界を感じた。だからシズちゃんに返事をする間も与えない早さでその場を離れ、波江の所に行った。

「今日はもういい」
「邪魔だから帰れって言えばいいでしょ」
「分かってるなら早く出ていってくれないかな」
「それはできないわね。誰かさんにやるように言われた仕事が沢山残ってるもの」
「残りは俺がやる。やってない仕事を書き出してとっとと帰れ」
「仕事をやってたら彼を構えないんじゃない?」

 けっこうあるわよ。そう付け加えた時の勝ち誇ったような波江の顔を見た瞬間、俺は理解した。

「……それが、お前が俺にスイカを寄越した本当の理由か」

 つまり俺は、今の今までこの女の思惑どおりに動いていたわけか。
 気に入らない。
 そしてもう気にしてなどいられない。
 波江はすでに涼しげな顔で仕事を再開している。俺はシズちゃんの所へ戻り、

「もう話終わったのか―うわっ!」

 彼をソファーに押し倒した。

「あーあ。口のまわりスイカの汁でべとべとじゃない」
「い…臨也?」
「しょうがないから俺が拭いてあげるよ」
「ちょっ、ちょっと待て!お前今の状況分かって…」

 そして長きに渡り求めていた魅惑の唇に自らのそれを重ね

「待てっつってんだろぉおおおっ!!」

 られなかった。

「ぐぶっ!!」

 激痛。何かが壊れる音と共に、肉体の至るところで剣呑な音がした。

「二度と電話してくんじゃねえっ!」

 破壊音。ああ、玄関の扉って意外と高いのに。

「残念だったわね」

 涼しげな声。なんとか顔を上げれば、“勝ち誇った”顔が俺を見下していた。

「たった一人の友達にまで嫌われちゃって」

 助手…変えようかな。




下剋上されました。

(取り敢えず、新羅に電話してもらってもいいですか)



―――――――――――
夕食にスイカ食べてて思いついてカッとなって書いた。単にシズちゃんにスイカえろく食べてほしかっただけなのに、最終的に波江さんの話になってしまった。なんでだろう\(^O^)/



2010.6.28
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -