「ねぇ、シズちゃん」

「俺が君に殺されてあげるから」

「だから」

「君は俺以外の人間を殺しちゃだめだよ」

「約束だから」

「俺以外――殺さないで」

「それで俺を殺したらその事をいっぱい悔やんで。君に殺された俺をいっぱい憎んで」

「悔やんで、憎んで」

「もう二度と、殺したりしちゃだめだからね」



「約束――したから」




《無数の手紙がくれるのは無だけであると》




 拝啓、平和島静雄様

 この度はご進学、誠におめでとうございます。静雄様が今日この日まで健やかに、そして立派に成長されました事、我々一同心よりお喜び申し上げます。
 日本各地にて多くの人々の目を楽しませ、心を潤している満開の桜の如く、静雄様の高校二年生となった制服姿は、さぞかし多くの関係者の胸を踊らせたことでしょう。
 学業その他ついて、我々のような者が申し上げる事は何もございません。私どもはただ一心に、静雄様の心身のご健康と一層のご活躍をお祈りしております。
 静雄様のご活躍をよりお側で拝見できる事を楽しみに、我々も昨年度以上に事業に励みたいと存じます。
 静雄様と平和島家のご盛栄を願いつつ、これにてお祝いの言葉とさせていただきます。   敬具




「これ、去年の使い回しじゃねぇかよ」

 優しくも眩しい春の日差しがいっぱいに広がる日本庭園。花も草木もきちんと春色で統一されているその庭の真ん中で、ただ二色だけが異彩を放っている。

「あー、こっちも大体去年と一緒だな」

 ひとつは日差しの輝かしい金色とは対照的な、些かにくすんだ人工的な金色。

「これは……ん?誰だコレ?まあ、いいか」

 もうひとつは庭の隅の桜の淡い薄桃とは対照的な、荒々しく燃え盛る禍々しい赤。そしてこの二色の関係は、金色の髪の少年が赤色の炎の中に手紙を放り投げている――であった。
 少年の名は平和島静雄。
 彼は先程から、脇に抱えた、自らの名前が宛名に書かれた手紙の束から一枚引き抜いては読み、読み終われば火の中に放り、また新たな手紙を引き抜いては読んで放り、引き抜く、読む、放る、をひたすら繰り返していた。
 彼が今まで読んだすべての手紙には彼を敬い誉め称える言葉が並び、例外なく皆高二になったばかりの彼を「様」付けで呼んでいる。
 しかし静雄は別段、それらを喜ぶでも蔑むでもなく、ただ作業を続けていた。

「…………うぜぇ」

 はずだったが、

「うぜぇ、うぜぇ、うぜぇ、うぜぇ。あぁぁああ!うぜぇぇぇぇ!!」

 突然大声を上げたかと思えば、次の瞬間、静雄は脇に抱えた未読の手紙の束を全て一気に掴み取った。そしてそのまま腕を思い切り振り上げると、ソレを炎目がけて力一杯に“叩きつけた”。
 轟音。
 穏やかだった日本庭園は一瞬にして粉塵に塗れ、千切れた何十もの手紙の残骸が窪んだ地面から舞い上がった。

「――何が満開の桜だ」

 パラリパラリと、静雄の目の前を白い紙が落ちていく。

「俺の存在なんて、この紙屑以下なんだよ」

 ヒラリヒラリと、庭の桜が僅かに散った。
 全ての紙が落ちきるまえに、静雄はその場を後にした。花弁を幾つか失った桜の木の下に、自分を見つめる人間がいるのに気付かないまま。




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