部屋が回る。ぐるぐる回る。見慣れた景色がぐるぐる回る。

「ねえ、つまんない」

 回転が止まる。というか自分で止めた。視界にあるのは天井につきそうな高さの書棚と髪の長い女。

「だったら仕事したら」
「えー、既に知ってる情報の整理なんかつまんない」
「ならまたコーヒーカップ擬いの事でもしてればいいわ。耳障りだから話し掛けないで」

 うわ、機嫌悪いな。っていうかコーヒーカップ擬いって酷くない? ただ椅子に座って回ってただけじゃん。大体コーヒーカップって一人で乗るものじゃないでしょ。なんか俺、友達いないみたいじゃん。
 とか色々思ったけど口にするのはやめた。機嫌の悪いあの女を煽るのは得策ではない。仕事はしてもらいたいもんね。
 なら、何しようかな。コーヒーカップは飽きたし。

「あ、そーだ。友達に会いに行こう!」

 思い立ったら吉日。早速ソファーに掛けてあったコートを掴み事務所を出る。

「――あなた、友達なんていたの?」

 なんて出掛け際に言われたけど気にしない。

「君だって友達いないじゃん、波江」

 生温くなってきた夜風に吹かれながら、今日は彼に何をしてやろうかと考えた。



『ティーンエージャー』



「きら、きら、パツキンがかぜぇになびくよ〜」

 すっかり夜の姿になった池袋へやってくると、まずは大事な大事な《友達》にご挨拶をする事から始めた。

「車道を、よこぉ切る大きな男〜」

 鼻歌を歌いながらガードレールに座っていれば、歩道橋を挟んだ向こう側にいた《友達》は、すぐに俺に気が付いてくれた。

「標識片手に〜鼻歌歌うよぉ――って、あれ。違う違う。鼻歌歌ってるのは俺だ」
「いーーざぁーーやぁぁぁーー!!」

 トラック同士の衝突事故でも起きたかのような轟音に、辺りにいた人間が一斉にこちらを見た。まあ、その前の時点ですでに多くの注目を集めてたんだけど。逃げる者、逆に近づいてくる者、すぐに興味をなくした者――その他の様々な反応があって、ああ、やっぱり人間っておもしろいと再認識する。
 強風で粉塵が散れば、さっきまで俺が座っていたガードレールが地面にめり込んでいた。
 うーん。相変わらず過激なご挨拶。こういうのを《ごあいさつなご挨拶》って言うんだろうね。それにしても、子供の絵が描かれた『通学路』の標識で破壊活動をするのはどうかと思うよ。それなんて反戦活動?


「シズちゃん、ダメじゃない。歩道橋がある道路は歩道橋を使って渡らなきゃ。まさか、歩道橋の渡り方知らないの? なんなら教えてあげようか?」

 握手をするために手を差し伸べる――代わりに、牽制をするためにナイフを取り出す。

「馬鹿にしてんのか。てめぇこそ三途の川の渡り方教えてやろうか」
「あははっ。シズちゃんにしてはなかなか上手い事言うね。5分の2点ってトコかな」
「ごぶ……?」

 お、計算してる計算してる。頑張ってね。それが出来なきゃその標識の子たち以下だよ。

「えと、20…だから……って、臨也っ! どこ行く!」
「次会う時までにはちゃんと分数勉強しといてねぇ。ばいばーい」
「なっ、待ちやがれっ! 0.4だ! ん、0.4? てめぇ、0点以下ってどういう意味だぁぁぁ!!」

 通学路の標識が矢の如く飛び、近々行われる選挙のポスターが並ぶ板に突き刺さった。彼のことだからただの偶然の出来事だろうが、なかなか皮肉な光景に思わず足を止めて笑ってしまった。
 次の瞬間、覚悟していたとおりに後頭部にとてつもない衝撃を受け身体が宙に浮いた。落下するまでの間、色々な種類の人間が俺を見ているのが見えた。その中で興味を持ったのは、好奇心を垂れ流しにしてこちらを見る目。子供のような純粋な瞳に、俺は地面に叩きつけられた痛みも忘れて口の端を上げた。
 ふらつきながら身体を起こせば、風になびく金髪が見える。それから純粋な怒りと憎しみと殺意に満ちた大人の顔。だけどこれから彼がする事は、十代の頃から変わらない戯れ。
 そして俺もこれから、高校時代からの《友達》である彼と、出会った時からよくしていた遊びをする。
 ただただ、こどものような純粋な気持ちで。





―――――――――――

とあるバントさんの同タイトルの曲が臨也さんの歌にしか聞こえないので書いた。本当はその曲みたいに明るく楽しい感じの話にしたかったのに何故かこうなった。
反省しかしていない。



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