twst | ナノ

音楽は聴かないし

ヘッドホンで音楽をきいているふりをして、君のさりさりと響く、軽い筆圧をずうっと聴いている。大好きなアニソンは聞かないし、アイドルの声だって君がいる時は雑音でしかない。
アズール氏が時折漏らす溜息とか、柔らかい唸り声とかそういうのがいとおしくってたまらない僕は、毎日毎日、君の奏でる素敵な音楽を聴いているみたいなものだ。君の稼働音は、僕を生かしている。
君がいない時ヘッドホンの中で、録音した君の声を切って貼って、ずらしてカットした、"僕を罵る"君の声が木霊していることを、君は知らない。


初めてヘッドホンで音楽を聞いた時、その濃い色彩に驚いた。イデアさんのヘッドホンは、かなり高価なものらしく、低音も高音も聞き取りやすくてクリアだ。殆どの人魚が、音楽を好きだ。僕はピアノだって弾けるし、並の人間よりは音楽に精通していると自負している。
あの日、僕とフロイドとジェイドのセッションを、イデアさんが録音して聞かせてくれた。ヘッドホンから流れるピアノの音は、酷くクリアで、本当に僕が弾いたものなのか疑わしかった。
――僕が部屋にいる時、イデアさんのヘッドホンがどこにも繋がれていないことを、実はこっそり知っている。知られていないつもりなのかもしれないが、人魚は耳がいいから。
僕がいるとき、あなたは音楽を聞かない。あなたの好きな音楽を、知れないことが辛い。あなたと同じヘッドホンを用意して、あなたと同じ音楽を、毎夜毎夜、僕が聴いていることをきっと、あなたは知らない。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -