twst | ナノ

きみが好きです

アズールの細い背中を指先でつつ、となぞると二つ、三つと薄い黒子が星座のようにイデアの指先を掠める。その黒子を、点々と線で繋げて勝手な星座を作るのがイデアは好きだった。白い肌をするすると浮き出た固い背骨を辿り、連なった黒子を指先でつなげて、身勝手で可愛らしくもない星を作る。その度に、頬がにんまりと緩んだ。幼稚で迷惑な手遊びなのはわかっている。きっと擽ったいだろう。落ちようとする眠りから、無理やり引き上げるような、そんな動作だから。
本人に告げたなら、きっと一笑に付されるだろうな。彼の背中の星座は、イデアしか知らない秘密だった。そんな子供みたいな真実が、イデアの独占欲を満たすのは、とんでもなく馬鹿げた純情だった。自覚があるからこそ、なんにも言えずにただひとり、散々蹂躙したあとで彼の背中を優しくなぞる。
窓辺から差し込む月明かりが、ベッドの中に潜ったアズールの白い肌を陶器のように輝かせていた。今日はまた一段と、月があかるく、白い。どこかに行ってしまうとしたら、こんな日が相応しいのだろう。
シーツの波に背中を投げ出したアズールは、イデアのされるがまま、ただじっと身じろぎ一つもせず黙っている。少しも揺れない、くしゃくしゃになった銀の髪。晒したままの首筋。眠ってしまったのだろうか。イデアは少し不安になった。いつもだったらくすぐったいだの、やめてくださいだのと、何らかのリアクションがあるのに。少し考えて、身を起こすとアズールの正面あたりに手のひらをつき、そのまま屈んで顔をのぞき込んだ。予想通り、2つの輝きがイデアを向いた。
「・・・起きてる」
「起きてますよ」
グラスを外したスカイブルーの瞳は、月光をよく取り込み、まるで冬の湖のように凪いで輝いている。じろり、と視線が動くと、銀の睫がちりと反射してイデアの瞳を焼いた。頬にほんのりと紅が差しているのは、先ほどの"運動"の成果であるか、己の手遊びによる結果かまでは読み取れず、思わず口元が緩む。不服げに曲げられた薄い桃色の唇が開くと、中から真っ赤な舌が覗いた。途端、あいらしい、等という恋愛脳に犯され、理論的思考を忘れてどろどろになった感情がイデアの体中を駆け巡る。
彼の見せる、こういう稚魚じみた顔が好きだ。高潔なようでいて、イデアと同じ場所に立っていてくれる。安心する。――それは多分、彼の見せる不器用な愛なのだろう。イデアにだけ、さらけ出す愛情なのだろう。イデアにとって、それは泣きたくなるほど渇望してやまないものであり、生涯けして求めてはならぬものだった。
――いまだけ。もっとたくさんの"愛"が見たい。
「許可をとってください」
じっと顔を眺めていると、やがて赤い舌が紡ぐ吐き捨てるような台詞がたまらなくいとおしい。
ねえ、君はこんな顔、ほかの誰かに見せる?僕は、こんなこと誰にもしないよ。誰の背筋もなぞりたくないし、体温も肉も、黒子なんか気持ち悪くてたまらない。だから、君も誰にも見せないで。
イデアは、自分の頭の中でひどく自己中心的な愛が駆け巡っているのを感じていた。愛とも呼べないかもしれない。でも仕方ないじゃない、君が悪いから。こんなこと、僕に教えた君が悪いから。
「許可とればいいんだ」
「・・・何をいまさら」
ふん、と鼻を鳴らしたアズールの頬に手を添える。自然と、アズールが身を起こして、唇が重なった。近くで見た瞳は、ますます輝きを増して、カーテンの隙間から鋭く切り込む月光のようで、熱い唇の感覚がぼやけてしまう。薄く空いた隙間から、舌を滑り込ませたらアズールは大人しく瞳を伏せた。熱い。体温が混じり合う音が聞こえる。こんなことだけで、こんなにも幸せになってしまう自分が憎らしい。もし、もうすぐそこに終わりが来ているとしたら、こんな風に終わりたい。――君ともし、終えられるのならば、だけれど。
瞳の端に、何かが滲むのを感じた。渇望が絞り出した、感情の膿だった。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -