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覚えのないよわむし

ジャックは多分ぼくのことが好きだと思う。

深夜のじっとりとした空気の中でぼんやりと僕はそんなことを考えた。ぼくは勿論ジャックのことが好きだが、おそらくそれは両想いである。(これに確固とした根拠はないけど!)電気を消した暗闇の部屋の中、僕はジャックが寝てるベッドの横に布団を敷いて寝ていた。遊星もクロウも明日まで留守だからしょうがないのだ。暗闇の中、ベッドヘッドのランプを控えめに点灯させてまだごそごそとデッキを弄っている姿は下から見上げる形になる僕の角度からだとジャックの顔しか見えない。

「ジャック、まだおきてる?」
「ああ」

さも今気付いたかのように話しかけると、短い返答が帰ってきた。その返答は温かくもなく、冷たくもなく。僕は暗闇に慣れた目をぼんやりとめぐらせた。真剣に手元を見るその顔。その表情。恐ろしく冷たい氷水のようで、僕はなんだか話かけるのを少し躊躇う。

「あのさ、好きだよ」
「……」
「聞いてる?」
「……」
「ひどいやつ」

僕はそうやって、適当な言葉で答えてくれない会話を終了させた。ひどいやつ、といいながら僕にとってこの(全てを完全に無視するという)反応は嬉しいものに近い。都合が悪いことを話されると、彼はこうやって押し黙ってしまうのだ!別段長くも無い関係は、僕にそういうことを学ばせた。そんないじらしい姿も、僕にとってはやっぱりいとしいものだ。
そういうことされると、少しだけ意地悪してみたくなるな。俯きがちの顔をじっと凝視して、僕はころあいを見計らった末に口を開いた。

「もしも、もしもさ、僕は君じゃなくて、遊星がすきだったら、もっと幸せになれたのかな」
「………。」
「ごめんね、嘘だよ。泣かないで」

ほらね。
君の紫色の瞳にうっすら溜まる透明な色も、僕は見逃さないくらいに君が好きだ。

(泣くくらいなら、僕のことすきだっていえよ)

11,3,31


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