小説 | ナノ

共犯者

※なんか知らないけどいつの間にか紅蓮の悪魔さんのおかげで人外化してたジャックと、帰ってきたブルーノちゃんがシティを出て行く話




「お前の文字は整然としていて、つまらん」
「そんなこと言われてもなあ」

俺が言った一言をとくに気にとめる様子も見せずにブルーノの左手がうす茶けた古いコピー用紙の上に文字を並べていく。傍目から見ても物置の中で何年もほうって置かれたらしい薄汚れたボールペンの、もうほとんど残量なんかない青いインクで書く文字は掠れていてところどころ判別できない。
一瞬「遊星へ」から始まり「ブルーノより」で締まる子供みたいな手紙の末尾に「またいつか、戻ってくる日もあると思います。でも、ジャックは連れてきません。」と付け加えさせようとおもった。そんなちっぽけでくだらない独占欲が醜く、急に恥ずかしくなった俺は暗くなり始めた部屋の窓辺にごく自然な動作で視線を逸らす。窓の向こうの夕暮れは段々と沈み始めて、きっともうあと数時間もたたずに暗い色と街頭のあかりしか見えなくなるんだろう。

「…、遊星もクロウも、みんなどんな顔するかな」
「知らん」
「でも、ジャックもぼくも、皆とおんなじ時間じゃ生きていけないもんね、」
「……」
「仕方ないことなんだよね、」

そうだな、とそれだけ言おうとおもってはたしてそれが真実なのかどうか、それを肯定してしまってよいものかどうか、ひどく迷った。脳裏に長年見続けた幼馴染の顔がよぎる。生きること、共に生きることは、そんなに難しいことだったろうか。もう俺は元人間なだけで人間じゃないし、こいつだって元から人間でもなければそもそも200年後に存在するはずの人間をモデルに作られた「何者でもない」ただのコピーロボットで、しかし、しかしだ。
俺が人間だったとき、こいつと生きる時間が違ったあのとき、あのひ、こいつと生きていくことを、一度でもためらいったことがあったろうか。結局どう足掻こうとこいつをおいて逝くことになることを悔やみはした。それを、「仕方のないこと」だから共に生きることをやめようと思ったことがあっただろうか。

「仕方のないことで済ますな、」
「…え、」
「俺たちは今日、仲間を捨てるんだ。…仕方ないで済ますな、」
「…ごめん、」
「俺はお前を選んだ、お前も俺を選べ。それでいい」

見上げるお前の瞳は相変わらず灰色に濁っていて、見慣れた色をしている。すこし戸惑ったように笑ったブルーノはかすかに震える左手でかすれたボールペンを持ち直すと「ブルーノより」で締めた手紙の最後になにかしら、先走ったような動作でさらさらと書き足す。さっきまで整然と並んでいた文字が少し崩れて波打っていて、その一文は、整然とした文章の中で妙に浮いて見える。「本当はジャックはおいていこうと思ったのですが、すきなのでもらっていきます」の最後の一文だけ、そこだけが先にいくにつれて幅がたりなくなってつまってしまったりだとかさっきまでマスの中に書いたように機械的に均等な大きさにそろっていた四角い文字がまばらになって大きさがそろっていなかったり、ところどころ丸く乱雑になっていたりするのを見ると、心が満たされるようなきもちになる。

「…遊星、どんな顔するかな、」

そう呟いたお前の瞳がどんな色をしていたのか、振ってくるお前の唇を受け入れた俺は知らない。

13,01,21


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