小説 | ナノ

君が噛んだぼくの夜



「お風呂にふたりははいらないってば、」
「別に湯船にはいるわけじゃないんだから、いいだろうが」
「わかったよ、わかったからはやくしめて、寒いから」

ぼくはさっきまで機嫌よくシャワーを浴びていたんだよ、ジャックが今日は遅くなるっていうから寂しかったけどご飯を作って家事をすませてそろそろ帰ってくるっていうか機嫌よくシャワーを浴びていたんだ。もちろん裸でだよ。そしたらことのほか早足で帰ってきたらしいジャックがぼくが入ってるっていうのに突然扉を開けてお風呂に入ってきたんだ、しかも服着たままだよ!何度もうちょっとで出るから待っててっていっても、ぬれちゃうからせめて服を脱ぎなさいって言っても、ぜんぜん聞かないからぼくはようやく諦めてちょっと暗い顔した君の瞳を見つめた。ちょっとだけ暗い顔。どうしたの、ってきいてもなんにも言ってくれないのはさっきで学習したので、ぼくはなんにも言わずにぬれた手でちょっとだけ君の頭をなでた。「触るな、」って言って君の手がぼくの左手を振り払う。散々っていうかいつも見せてるはずのなのに、君はまじまじとぼくの裸を見詰めるとふっと眉をひそめる。

「ど、どしたの、」
「………、体型はそんなに変わらんというのに、お前は俺のどこに欲情するのだ」
「…ん?え、えーと、もうちょっと、詳しく話してくれる?」
「だから、俺とお前じゃ、そんなに体型も変わらんし、背も同じくらいだし、第一柔らかいわけでも小さいわけでもない男の体で、…本当に欲情できているのかと聞いている」
「誰かになにか言われたの?」

べつに。と目をそらす君の目元がうっすら赤い。それがシャワーの湯気でほてっているだけなのか、恥ずかしいのか、ぼくにはわからなかったけれどそれでも君の瞳がちょっとだけ悲しそうな色をしていることはよくわかったので、きっと誰かに何か言われたんだろうなあってぼくは思う。そうやって、他人に言われたことを気にする君はちょっとかわいい。

「あのね、ぼくとジャックじゃだいぶ体型も違うって思うけどな、」
「そうでもないだろう」
「そうでもあります、腰とか、」

胸とか、おしりとか、うでとか、あとふとももとか、かおだって小さいし。
順番にぬれた手で触れていったら、君は体を微かにこわばらせて抵抗なのか困惑なのかわからない反応をする。君のしっとりしたシャツに包まれた腰にぼくの両腕が絡んだら、アメジストの瞳が憎らしげにぼくを見返す。今度こそ恥じらいで赤くなった目元を唇でなでると君は嫌そうに首を振る。そういう姿がかわいらしいっていうんだ。

「誰になにを言われたかなんて、ぼくにはわからないけどね」
「……」
「ぼくが君に欲情しなくなる日なんてきっとこきっとこないし、ぼくは君が死ぬまで、…君が望んでくれるなら君が死んでも、君の恋人だよ、ジャック。愛してる」

君の肩口は甘いにおい。ぼくとおんなじソープのにおいがして、ぼくたちは一緒に暮らしてるんだって思って、ぼくは幸せな気持ちになる。

「男でも女でも、性格が悪くても、横暴でも、ぼくよりずっとずっと年上になっちゃっても、年老いても、なにがあっても、君だけはずっとずっとぼくが守るよ」

ぼくの背に回された君の手が少しみじろいだだけで、ぼくは死んでもいいってきもちになる。君がそういうことを不安に思ってくれただけで、ぼくは生きててよかったって思う。もしも、ぼくの存在が君の心を傷つけることになるなら、ぼくはこの場で死んでしまってもいいって思う。

「…ばかか、お前は」

でも、だから嫌わないでほしいって思うぼくの脆弱さを、君は知らないでいい。

13,1,15


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