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幸せになりたかった

なにかしら、わけがわからないような気がする夢を見たので、おれは夜中に目を覚ました。何時だろうかなんてことを気にすることもなく、外は真っ暗だったので起きるにはずいぶんと早い時間だろうと考えて、おれは再び目を閉じようとした。暗いのは嫌いではないけれど、こういう冬の夜中の空気はいやになる。じっと湿っているようで、乾いていて、とても一人では耐えたられたもんじゃないのだ。
隣ですやすや正しく寝息をたてている子供は、今年で19歳になったはずだから、もう子供なんて呼べないなあとおれは複雑な想いを抱えながら横顔を見つめて考えた。子供扱いを線引きであるとしているのは、きっとおれぐらいのものだと思う。子供扱いしておけば、いつか捨てられたときも自分が保てる。そもそもそういう関係じゃなかったのだと、言えた。言えると、想っていた。

たとえば、「遊星はさー、家買うならどのくらいがいい?」とか。
「犬とか飼いたい?」とか「ベッドはあんまりおっきくないほうがいいよね、」とか。おそろいのマグカップとか、指輪とか、居心地のいい毛布とか、そういうものを見せられると、「もしかして、いいのかな」と思ってしまう。元来、おれは都合のいいように解釈することが得意なわけで、もしかして、龍亞がほしいのはおれなんじゃないか、なんて考えてしまう。
愛してるの向こう側が透けて見えない不透明であると、とたんにおれはこういう期待をしてしまうわけで、それで過去に痛い目を見てきたのだから、もうやめにしようと何度も想ったのに、龍亞の手は暖かかったから、おれはそれをあきらめずに済んだ。

「…ねむれない」

わざと口に出した言葉をかみ締める。ここ数年、眠れない日なんてあったろうか。暖かい毛布も、指輪も、おそろいのマグカップも、きっとなくったっておれは眠れた。龍亞がいたら、眠れたように、おもうのだ。

「遊星、」

ふわふわした夢うつつの声が聞こえたので、おれは天井を見つめていた瞳をあわてて隣の人に戻すことにした。今さっき起きたばかりで、すっかり寝ぼけているんだろう、ふわふわした瞳の龍亞がおれを見る。

「悪い、起こしたか」
「寝れないんだね、…おいで」
「龍亞、」
「遊星、あったかい…、おやすみー…」

ゆめうつつのまま龍亞は両の腕で腰を抱くと、そのまま再び夢の世界にいってしまった。おれはといえば、身動きもできず、ただただこの子供の腕はいつだって温かいなあと想うのだ。何年たっても、おいでと笑う君の腕は温かい。

「おやすみ、」

無表情で口に出した言葉はきっと不透明だ。あんな小さな、おれの「眠れない」という一言を夢の世界で聞き届けた龍亞が、またおきてくれないかっていうちょっとした期待があったのかもしれない。おれは、この子供にいつだって期待しているばかりだ。

「…おやすみ、」

結局おきることはなかった龍亞の耳元に小さくおやすみを流し込む。
指輪も、おそろいのマグカップも、大きな家も、白い犬も、なんにもいらないから、おれは龍亞が一緒にいてくれたらいつだってそれでいい。龍亞と一緒のおやすみとおはようがあれば、おれは、それでいい。そう思いながら、おれも目を閉じた。

毎日毎日、こうやって朝がくればいいのに。

10,11,19


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