小説 | ナノ

殺されたくなかったらキスでもしてろ

※現パロ、15歳のブルーノさん×25歳のジャックさん



白い息を吐いて、白い傘を閉じる。ただガレージから歩いてきただけなのに革靴のそこがびしゃびしゃとひずむ。不快だ。マンションのホールは湿気と外気でじっとりと薄暗い。気持ちが悪くなって、しっとりと濡れた黒いマフラーに首をうずめるとボタンひとつでエレベーターを呼びつける。8階。押し慣れた階数を押すと、エレベーターは誰を待つわけでもなく俺の巣へと向かう。

雨は嫌いだ。

いやな気分になる。なんとなく。なんとなくだ。小さな頃からずっとそうだった、雨の日は不快な気持ちになる。小さな頃は暗いとかじめじめしているからとかなんだかんだで明確な理由があったような気がしたが、今ではもうそんなものも見えなくなってしまった。
8階に吐き出されたので、俺はおとなしく自分の巣を目指す。寒い。とにかく寒い。寒いから、俺は自分の腕を抱く。804号室。寒さにかじかむ手でなんとか鍵を開けると、見慣れたスニーカーが真ん中に綺麗に並んでいた。帰っていたのか、そう思って妙にほっとする。

「ただいま」

玄関を抜けて、おそらくは居間にいるだろう見慣れた青い頭した子供を脳裏に描きながら声をかける。いつもみたいに、「おかえんなさいー」という間延びした腹の立つ声はない。ぼんやりと電気がついている居間に入ると、待ちくたびれたのか、それとも暖房の暖かさにやられたのか、すっかり伸び切った体制でソファに横たわって眠る青い頭の子供。足先がソファからはみでている。(この子供はまだ15歳のわりに発育がいいようで、身長はすでに180を超えている。追い抜かれそうでおそろしい)床にはさきほどまで握られていたのだろう、テレビのリモコンが転がっている。テレビの中のニュース番組は無機質なアナウンサーの声で、今日の出来事を垂れ流していた。

「ブルーノ、おい、風邪ひくぞ」

声をかけてもうんともすんとも言わない。俺はすっかり困ってしまって、仕方ない毛布でももってきてやるか、世話をかけるやつだな、とかがんだ足をもう一度立たせる。
寝室に向かう途中に見た窓の外は、やっぱりざーざーぶりの雨で俺はますます憂鬱になった。あの子供は、この雨降りの憂鬱な中、ひとりでなにをしていたのだろう。
ブルーノ、15歳、中学生。システムエンジニア志望、高専に行き、卒業したら工学科。(ここらへんは俺にはよくわからんから間違っているかも知れん)俺といえば、25歳、モデル、金はそれなりにもってる。(自分でいうのもなんだか顔は悪くないと思うし人気もあるのだろうと思う。性格に関してはノーコメントだ)あの子供には、親がいない。俺にも、親はいない。生まれ育った孤児院の世話になった恩師から、こいつを預かったときは(なんでもこいつが行きたがってる高専が近いんだと)そりゃいやだったが、今ではこの暮らしにもなれた。
飯は作れるし、掃除も洗濯もできる。もとより物は少ないからそんなに掃除も洗濯も必要がなかったがそれでも忙しい時期なんかはとても助かった。とくに、飯が作れるしというのは俺の中でメリットが大きい。なぜなら、自分でいうのもなんだが、俺の料理の腕は壊滅的だったからだ。

なにより、ブルーノはよく笑ったし、よくしゃべった。わけのわからない返しとか妙に発育のいい身長がいつ自分に追いつくのかとイラつくことも多かったが、ひとりじゃないのは気分がいい。ひとりは好きだが、嫌いだ。ひとりは落ちつくが、言葉を忘れそうになる。それは、たぶん、この子供でなくてもよかった。でも、この子供でよかったと思う。

ソファで眠る子供の体に毛布をかける。かがんでまだどことなく幼い顔で眠る子供の顔をじっと見ていると、さっきの話は、嘘だなと考えた。
この子供でなくてもよかったなんてのは、嘘だ。この子供でなくてはダメだ。ブルーノでなくてはダメだった。10歳も年下の少年相手に自分はなにを考えているのだろう、と思うときもある。いつからかこの子供の、仲のいい友人の話を聞くことが辛くなったし、この子供が女生徒告白されたなんて話をされれば嫉妬で気が狂いそうだった。恋をしているのかもしれない、でもそんな綺麗なものじゃない。初めてできた自分と恙無く私生活をともにしてくれる相手に執着しているだけなのかもしれない。(俺は他人との生活を破綻させることに関してはプロだ)相手は子供だと、そう考えると胸が詰まる。
そもそもきっと、自分は頭がおかしくなってしまったのだ。でなければ、こんな、こんな。

ぼうっと顔を見つめていると、薄く開いた灰色の瞳。あ、まずい、と怯む。じっと顔を見つめていたことがばれてしまったら変なやつだと思われるにちがいなかった。少なくとも俺はそう思う。それは俺がいやなやつだからだろうか、そんなことはどっちだっていい。急いで身を引こうとしたのに、滑らかで自然な動作でブルーノの腕が、自分の肩を押さえつける。
驚くひまもなく、身を起こしたブルーノの唇が自分の唇と重なったもので、俺はそれきり身を引くことも、突き飛ばすこともできなかった。
ブルーノの舌が微かに、確かめるように恭しく唇を掠める。離れた唇に、俺はなんでとかなんだとか言ったようなきがする。

「キス、したいのかなって」

もっかいしよ、無表情に話すブルーノの腕が俺の腰を抱いても、ブルーノの舌がまた唇をかすめても、今度も、俺はなにひとつできやしなかった。

12,9,23



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