小説 | ナノ

雨が降ったら

「あ、雨降ってる」

ブルーノがそういうので、俺も同じく窓の外を見た。ひどい雨だ、ざーざーぶりだ。コンクリートの地面を叩きつける音がひどい。まるでガレージだけ外界から遮断されたみたいにまるっきり雨の音以外聞こえない。
そういえば配達に出かけたままのクロウは大丈夫だろうか、ざーざーぶりに途方にくれているんじゃなかろうか。朝方は気持ちのいい快晴だったから彼は傘をもっていかなかったような気がする。連絡がないところをみるともしかしたら、優しい彼女のところで雨宿りでもさせてもらっているのかもしれない。もう一人、ついさっき出て行ったあいつは、確か傘なんか持っていかなかった気がする。隣でパソコンを叩いていたブルーノが立ち上がったので、俺はどこかにおいたはずの青い傘と白い傘を探す。どこにやったっけな。

「あ、大丈夫。ぼく折りたたみあるから、でももう一本借りてくね」
「そうか、気をつけてな」
「うん」

そういってブルーノはでて行った。彼が誰を迎えに行ったのかなんていうのは、もちろん俺には分り切ったことで、それをとても微笑ましくしよかった、と心の底から思う。でも少しだけさみしい気もする。
こんなざーざーぶりの雨の日でも、ちょっとだけ嬉しそうな横顔で出て行ったブルーノも、きっとどこかで雨やどりしてふてくされているだろう不機嫌ヅラの親友も、二人ともが、少しでも冷たい思いをしないように願った。規則正しく、コンクリートを雨が叩く音。

今何時だったろうか、時計をみる。午後五時三十六分。そろそろだろうか。俺は少しだけきしんだ音をたてる椅子の背もたれに体重を預けた。そのうち、ドアが開いて、いつもみたいに駆け込んでくる少年はまず最初になんて話すだろうか。

「遊星ー!濡れちゃったよ、タオル貸して!」

こんな感じかな、ちょっと違うかもしれない。意外としっかりしてるから、傘ぐらいはもっていっている気がする。「遊星!遊びにきたよ!」こうだろうか。違うかな。それでももし、小さな彼のまだ高い声が、両開きのドアのこちら側で話す言葉の一番最初が俺の名前だったとしたら嬉しい。

雨が止んで、扉があくまであともうすこし。

12,9,21


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