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いっしょに寝ようよ

ふと、目を冷ますとまだまだ部屋の中は真っ暗だった。開けっ放しだったカーテンをすかして窓際から、弱々しく床を照らす月光が微かに明るい。今何時だったっけ、時計を探したけれどどうやらぼくの手の届く範囲にはないらしい。寝てる間に床に落としたのかもしれない。多分そうだろう。明日ジャックに怒られるかも、まあそれもいいかなあ。
そうやってごそごそやってたら、もしかして起こしてしまったんじゃないかと隣で寝てる(と思う)ジャックを見つめる。こちら側に向けたはだかの背中じゃあ起きてるんだか眠っているんだかもわからない。

「起きてる」

そっと覗き込もうとしたら、ジャックがすかさずそんなことを言ったのでぼくはその唐突さとまさかそんなはっきりした声で言われると思ってなかったから、驚いてちょっとだけ怯む。

「ご、ごめん。起こしちゃったかな、」
「眠れなかったんだ」

そうなんだ。どれくらいから?お前が寝たあとから。かれこれ三時間が経つな。
そんなことを話す。相変わらずジャックはこちらを見ない。暗闇になれた瞳で見ても見なくてもはだかの背中は少しもうごかなかったので、ぼくはなんとなくさみしくなった。遠いような近いような背中との距離もちょっとだけ悲しいし、ひとりぼっちでなんにもない夜に眠らずにじっとしていたジャックのことも、ぼくを起こしてくれなかったことも、やっぱりかなしくてさみしいよ。セックスしようと愛の言葉をのべようと、ジャックとつながる確かな手だてがぼくには思いつかない。情けない男なんだ、ぼくは。

「起こしてくれれば、」

よかったのに。とは言えなくてぼくの言葉は宙に溶けて消えてしまうのだ。ジャックが眠れないときは起こしてほしいし、ジャックがさむいときは呼んでほしい、ジャックが眠いときは毛布になりたい。だけどもそれは多分ぼくのうぬぼれだ、ジャックは眠れなくても一人で起きてるし、ジャックは寒くても一人で腕を抱くし、ジャックは眠かったら一人で眠ってしまう。そういう人だった。知ってた、知ってたよ。
開けっ放しのカーテンですら少しも揺れない。なんにもない、音もしない、そんな夜にじっとして君はどうしていたんだろう。ぼくには想像もつかなかった。

「ジャック、」
「なんだ」
「いっしょに寝ようよ」
「もう寝ているだろう」
「そういうことじゃなくて、」

そういうことじゃなくて。
そういうことじゃなくてさ、たとえば、君が眠れる方法をぼくに提案してほしかった。ぼくは鈍感だしばかだし、きみの気持ちなんかほんの1ミリもわかんないけどわかんないなりに話してきかせてほしかった。ねえ、ジャック、ぼくといっしょに寝ようよ。いっしょに、ってそういうことだろう。
ベッドの中で、君は王様。きみのためだったらなんだってするから、君が安らかに眠れる方法をぼくに話して聞かせてほしかった。

「ぼく、ちょっとだけ寒いから、くっついていい?」

ジャックはうんともすんとも言わなかったけど、いやだとも言われなかったので遠慮なく背中にぴっとりくっついておまけにお腹に腕を回してぎゅうって抱きしめてやった。ジャックは少しだけ居心地悪そうにもぞもぞと身じろぎして、それでも離せともやめろとも言われなかったからそのまんま目を閉じる。ジャックはこうやって、人に抱きしめられることになれてないからちょっと居心地悪そうにすることをぼくだけが知ってる。

「…おまえは、」
「ん?」
「おまえは、おかしなやつだな」

静かな声。ぼくがなんて答えたものだろうかと考えあぐねていたら、やがて、規則的な寝息が背中の向こう側で聞こえてきたのでぼくは安心した。眠るきみの背中はあたたかい。ふと、ぼくはさっきの言葉の意味を考える。おかしなやつだな、おまえは。おかしなやつなんだろうか、ぼくは。きみのために何かするのは、おかしなこと?よくわからない。

(まあ、いっか。)

明日考えよう。落ちるまぶたに逆らわず、ぼくはもう一度目を閉じる。君が眠れるなら、ぼくがおかしなやつだってなんだってかまわない。だからもし、もし、きみさえよかったらなんだけど、これからもぼくは、きみといっしょに寝たい。眠りたい。きみの毛布になりたい。眠るきみの背中をだきながら思った。

おやすみジャック、よい夢を。

12,9,21


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