小説 | ナノ

カメレオンの幸福

※VJ版の龍亞くんが遊星ちゃんを監禁するはなし




「遊星ちゃん、…遊星ちゃん、寝ちゃったの。」
「………起きてる、おかえり」
「そっか。ただいま。」

暗闇のなかで、ほっとしたような声で話されると、これからなにをされるのか気が気でなかった尖った神経がじんわりとその棘をなくしていくのを感じた。
隣で寝ているこの少年の妹を起こさないようにそっとベッドから抜け出る。

「夕飯は?」
「食べてないけど、いいよ。」
「よくないだろう。」

否定する言葉を遮って、台所に向かう。龍亞も後ろからおとなしくついてきているようだった。
何か簡単なものがあったろうか、と考え電気をつけてシンクに立つ。唐突に与えられた光に目の前がくらくらした。

「何か食べたいものはあるか」
「ううん」
「…?どうした、何も食べてないんだろう。具合でも悪いのか、」

何も食べたくないということだろうか、と振り向いた瞬間に取られた腕が痛い。いとも簡単にシンクに背を押し付けられると、金色の瞳があざ笑うみたいに俺を見上げる。

「わかんないかなぁ。ごはんより先にセックスしようよ、遊星ちゃん」
「やめろ、龍亞!…ぅ、…」
「別にごはん食べながらでもいいけど。」

シンクに押し付けられた背中がいたい。昨日も朝まで散々嬲られた身体をまた弄ばれるのかとおもうと、気が狂いそうだった。
タンクトップのがさついた布地の下を這って、少年らしい柔らかな手が粘ついた手つきで肌を弄ぶ。背筋が総毛立って、立っていられないような感覚に足が震えた。
それが恐ろしかった。まだ15にもなっていない少年に、ほぼ10近くも離れているこの少年に、どうにかされて気が狂いそうになるこの生活が、この暮らしが、恐ろしかった。もう元には戻れないと思う、それは当たり前だ。だけれど、自分の中で龍亞との行為の比率が日常生活の中で大きな意味合いをしめていくことが、何よりも恐ろしい。
飽きたら捨てられるのかもしれなかった。うまく龍亞のいうことが聞けない日は、捨てられるかもしれないとビクビクみっともなく怯えた。
この暮らしを始めて二ヶ月がたって、
二ヶ月前の自分と比べて自分が全然知らないどこか遠い土地に立っている気すらして、頭のなかがぼやける。悲しいのでもなく、きっとこれは幸福なのだと思う。逃げられない幸福。

「やめ、も、昨日も散々…」
「でも遊星ちゃん、まだキスもしてないのに。」
「…っ…い、言わないでくれ」

期待に胸が震える。何をされるのかと、怯えといっしょになってドロドロした汚い期待が胸を濡らした。
シンクに預けた背中が揺れて、待ち兼ねただろうとでもいうように唇にキスされる。背中が僅かにキシリといたんだが、そんなことに気を回す暇はなく、ただただ絡められる舌に応えることで精一杯だった。わざとらしく鳴らされるくちゃくちゃした水音に、ますます胸が期待で震える。
服の中で弄ばれる肌も、なにもかも、このキスが終わってしまったのなら俺は一体どうなってしまうのだろう。期待にも絶望にもとれる言葉が俺のなかで渦を巻く。俺は、この暮らしに慣れていた。
変わってしまう何かも、取り返せないなにかも、俺にはもうどうでもよかったのかもしれなかった。


****


「遊星ちゃんさ、俺とセックスするの大分すきになったよね」
「……っ、ちが、」
「違うんだ、」

遊星ちゃんの「違う」は「そうだよ」の比喩みたいなもんだ。俺はそれをよく知っている。セックスしたあとのベッドのなかで、尋ねる声をあからさまに低くすると怯えたように震えた遊星ちゃんは俺に慈悲を求める。
セックスしたあと、龍可ちゃんといっしょに寝たがらない遊星ちゃんは俺のベッドと俺の胸のなかで眠る。捨てられないようにしっかり右手を繋ぐ。
それはかわいいな、とおもうけれど遊星ちゃんはばかだな、とも思う。

「違うんだ、そっか、じゃあもうやめよっか。こんな生活」
「……」
「やなんでしょ、俺とセックスするの」
「…ち、違う、すまない、」
「何が違うの?」
「……」
「ちゃんと言わないとわかんないな、」
「………その、」

微かに歪んだ藍色の瞳がどこへゆこうかと視線をたどたどしく彷徨わせる。ほんのりと赤くなった頬を、俺は人さし指で撫でて、続きを促した。
ただただ、日常の中で、俺とのセックスがないことには満足できないような身体になってほしかった。そういう浅ましい欲を、俺は目の前の人にぶつけている。
誰でもいい訳じゃなかった。でもだれかがほしかった。俺の中でのだれかが、遊星ちゃんでしかなくなったのがいつ頃のことだったか今の俺にはまったく覚えがなかった。

「……、龍亞とセックスするのは、好き…だ」
「そっか、そうなんだ。俺のことは?好き?」
「…好き…」
「俺も大好きだよ遊星ちゃん」

この、目の前の人は、俺とのセックスが好きだという。つい二ヶ月前まで、セックスの存在なんか知らなかったような男が俺とのセックスを好きだという。俺が好きだという。汚してしまった、と後悔する。おちてきてくれた、と歓喜する。
不思議な気持ちだった。真っ直ぐに見据えられた藍色の瞳が俺を責めているようで、胸のなかが痺れるみたいに震える。

「遊星ちゃん、ここいじられるの好きだよね」
「ぁ、…ふ…ぁん、」
「きもちいい?」

人さし指で胸をなぞる。さっきの余韻のまま、固くなったそこを指がかすめるたびにまるで初めていじられたみたいに遊星ちゃんの背がびくびく震える。藍色の瞳がじわりと濡れて歪んだ。

「俺とのセックス好きなんだよね?」
「…っ……ああ、」
「じゃあもっかいしよ、遊星ちゃん」

返事も聞かずに唇を塞いだ。
何度も何度もセックスをして、叩き込んで、教え込んで、自己嫌悪に苛まれるこの人を見て俺は安心する。もしも万が一、妊娠でもしてくれたらもっと安心するのにと思った。俺はばかだ。

(はやくおとなになりたい、)

おとなになれば、きっともっとずっと、幸せになれるだろうに。




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