君は僕の光の子 3日目 @
黄金色のたてがみ。
大きな身体。
ゆらゆらと揺れるしっぽ。
ゆっくりと歩き、時折大きな牙を見せる様は、まさに古くから百獣の王と呼ばれるに相応しかった。
ルイは目を爛々と輝かせ、柵から身を乗り出すようにしてその獣を見つめる。
「すごい、本当に生きてるんだ……」
感嘆のため息と共に出てくるのは、そんなありふれた感想だけ。
ルイが父の元にやってきて、早三日。
二人は朝早くから借宿を離れ、近くの惑星にある動物園にいた。
(1)
ありとあらゆる生物が一度は絶滅の危機に瀕した地球の動物たちは、今や滅多にお目にかかれない希少種ばかりだ。
牛や豚、魚等、普段人々が口にする類いのものならばともかく、古くから観賞、愛玩目的で飼育されてきた獣などは、広い宇宙の中でもその数が数十頭に留まる種も珍しくない。
だから、家庭のペットといえば今やロボットが主流なのだ。
見た目ばかりはチャコのように猫をデフォルメ化したようなものから、限りなくモチーフの動物に近いものまで、多種多様。
しかし幾らリアルであっても、実際に心臓を動かし、血液を身体に送る必要がないのが彼らという存在で。
だからといって彼らを生きていないと言うつもりはないが、少なくとも本物の動物でないことは確かだ。
それはあまりに希少で、直接見ることが出来る場はごく一部に限られている。
――その数少ない一つがここ、銀河の端に位置する惑星にある、エヴァット動物園だった。
宇宙にも数カ所しか存在しない、ロボットや映像を使わない、本物の動物園コロニー。
規模こそは小さいものの、集められた動物たちは全て実際に“生きている”。
心臓の鼓動に合わせて動く胸。
鋭い瞳。
退屈げに揺れる尻尾。
プログラミングでは作りだせない生の迫力に、ルイは息を呑んだ。
百獣の王たるライオンが、その大きな身体で宙に吊るされたタイヤに抱きつき、かじりつく姿は、ちょっとした恐怖すら覚える。
「……ロボット以外の動物を見るのは初めてか?」
柵にしがみつき、じっとその場を離れようとしないルイに、父はいつもの素っ気ない調子で尋ねた。
ルイは目線をライオンに固定したまま、こくりと頷く。
「うん。そういうところに行くとお母さんとチャコが、“どうしても変な気になるから”って、嫌がって……」
「…………」
「特にカンガルーとかは、絶対に純粋な目で見られないって。私は、よく意味がわからなかったんだけど」
「……わからなくていい」
「お父さんは、ならないの? 変な気……」
そこで初めて、ルイは振り返って父を見た。
あれは確か、二年前のクリスマスだったか。
例年通りいつものメンバーとその子供たちが集まって、盛大なパーティーを開いたときだ(父はその場には来られなかったが)。
ベルおじさんのところの次男が保育園の親子遠足で動物園に行くことになって、どうせなら本物を見たかった、なんて言い出したのがきっかけだったと思う。
「ハワードおじさんとか、シンゴさんとか、シャアラさんとか、お母さんと一緒になって肯いていたし……。ベルおじさんとメノリさんも苦笑いしてたよ?」
あのときの大人たちの妙な一体感は、とても言葉には出来ない。
そして彼らがそんな空気を出すとき、たいていの原因は例の遭難事件に繋がるのだ。
少なくともルイはそう思っている。
「…………」
父の答えは、沈黙。
しかしそこには浮かぶ表情はあのときの大人たちと同じだった。
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