1日目 G | ナノ








君は僕の光の子
 
1日目 G





(1)


「お父さん……」

ルイは下に降りて、小さくそう呼びかけた。

「……どうかしたか?」

父は振り返り、パソコンに落としていた目線をこちらに向ける。

そのまっすぐな視線に目を合わせることが出来なくて、ルイは咄嗟に顔をそらした。
それでも無視はされなかったので、ほっと一息つく。

「あ、あのね、これ……」

顔も見ないまま、おずおずと、そのプレゼントを机の上に置く。

「…………」
「サ、サーシャとクリスと一緒におみやげ屋さん入ったから……シャトルの」

重い沈黙が苦しくて、必死に言葉を紡ぐ。
父は相変わらずの無言だった。

目をそらしているから、その目線の先に何があるのかはわからない。
どんな表情をしているのかも。


「…………」
「…………」
「……じゃ、じゃあ、それだけ、だから」


結局、父が何かを言うことはなかった。

それに落胆を感じて、ルイは背を向ける。
一人で一喜一憂している自分がひどく滑稽に思えた。

期待なんて、とっくにすることはなくなっていたのに。
でなければ自分が傷つくだけだと、わかっていたはずなのに。

涙があふれてきそうだった。
それでも懸命に押さえ込む。

今泣いたって、慰めてくれる人はいない。
余計にむなしくなるだけだ。

泣くな。
こんなことで、泣くんじゃない。


そうやって自分に言い聞かせて、ルイはリビングの扉を開けた。
その時だ。


「――ルイ」


足が止まる。
思いがけず、少し柔らかなその声に、恐る恐る振り返った。

「な、に……?」
「……ありがとう」


――父は、少しだけ、口元をほころばせていた。


見慣れた無表情ではない。
母たちに見せるものほど、穏やかでもない。

でも、笑顔だ。

「うん……」

急いでリビングを出て行く。
また涙が出てきそうだった。




(2)


ルイは濡れた髪を乾かし、ベッドに身を投げた。

ぼふん、と柔らかい羽毛が飛び込んだ衝撃を吸収する。

「コンピューター、ライトオフ」

辺りは、闇に包まれて。
ルイはそっと目を閉じた。


『あんたって、なんでおじさん相手だとそんなに弱腰なのよ』


つい数週間前に発せられた、同い年の幼馴染の言葉を思い出す。

父と過ごす久しぶりの二週間に、不安だ、と愚痴をこぼした。
そうしたら、綺麗にウェーブのかかったブロンドを撫でつけながら睨まれ、そう言われたのだ。

その問いに、自分はなんと返したっけ……。


『難しく考えすぎなのよ。やってみりゃ、案外あっさり行くってモンでしょ』


(――うん。その通りだった)


ルイは心の中の幼馴染みにそう返した。

プレゼントは渡せたし、その後の夕食でも、ぎこちないながらもそれなりの会話を交わした。

出発前は、あれだけ色々考えて、とても不安だったのに。
ずっとずっと、あっさり、とまでは行かなくても。


上手くいった――と、思う。


ルイは微笑んだ。

こうやって、この七日間、少しずつでいいから、一日一日を歩み寄って行けたなら。

今までの父娘関係を、笑い合える日も来るかもしれない。
いつか一緒に、母とチャコと、四人で。

途方もない話かもしれないけれど。
不可能ではない気がした。


――きっと、うまく行く。


その予感に、ルイはくすぐったくて寝返りを打った。

眠気はすぐにやってきて、気がつけば、夢の中。
夢の内容までは覚えていないけれど。

でも、ぐっすりと眠れたことだけは確かだった。






 







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -