君は僕の光の子 1日目 E
(1)
「――おとうさん……っ!!」
ルイは叫んだ。
いや、叫んだと言うにはあまりにお粗末だった。
自分でもわかるくらいに、声がうわずっている。
おまけにかすれて、大きくもない。
この雑踏の中では、一ひねりにかき消えてしまう。
そう思った。
けれど――
「あ、こっち見たよ!!」
サ−シャの声が、頭の中で反響する。
もちろん誰よりも高い位置にいるルイは、すぐにわかった。
(――気づいてくれた)
心臓が痛い。
囲んでいた連中に頭を少し下げながら近寄ってくる度に、緊張が高まった。
細い黒髪に、端正な顔立ち。
そこに浮かぶのは、いつもの無表情だけど。
(気づいてくれたんだ――)
何度もそう言い聞かせる。
とても信じきれなくて、でも、確かに嬉しい。
父はすぐに側まで来た。
少しだけ眼を細めて、ロビンに肩車されたルイを見上げる。
「久しぶりだな」
「う、ん……」
「元気だったか?」
「……ん」
ロビンが、ルイを下に降ろす。
地面が一気に近くなった。
「娘が面倒をおかけしたようで」
折り目正しく、カオルはロビンに会釈した。
「いえいえ」
「――ね、ルイのパパ、かっこいいね」
挨拶やら握手やらを交わす大人二人を尻目に、こそっとサーシャが耳打ちする。
それでもルイは未だに、どこか夢の中にでもいるような、そんな心持ちだった。
「美形! ママがいたら喜ぶだろうなぁ」
「そう?」
「ママは面食いだから」
苦笑する。
そういう人は確かに多い。
ハワードおじさんの知り合いと言えば、もっとびっくりするんじゃないだろうか。
何しろあちらはまぎれもない有名人である。
サーシャは、父とルイを見比べて、でも、とあごに指を当てた。
「でも、ルイとはあんまり似てないんだね」
「……よく言われる」
ルイは、母親似だから。
(2)
サーシャとクリスと連絡先を教え合って、ルイは二人と別れた。
遠ざかっていく車体に、最後まで手を振り、二人を見送る。
サーシャは涙ぐんでいたし、ルイも実は少し泣きそうだった。
子供同士が仲良くなるのに、時間はたいした問題ではないのだ。
二人を乗せた車が消えて、横に大きく振っていたルイの手は途端に置き場所がなくなってしまった。
隣の父との距離も、やはり微妙に空いたまま。
(……どうしよう。なんて話しかけたらいいんだろう)
上げた手を胸元に下げて、立ちすくむ。
「――あ」
けれど、目の前に伸びる長い長い影を見て。
振り返った。
もう夕焼けの時間だった。
母の髪の色と同じ夕日に、眉を寄せる。
たった半日なのに、もう寂しかった。
父を見上げれば同じように振り返って、目を細めている。
もしかしたら、同じことを考えているのかもしれない。
ルイとカオル――
不器用な親子は二人して並び、しばらくの間は、ただ夕日をぼうっと見つめていた。
|
|