2日目 @ | ナノ








君は僕の光の子
 
2日目 @




目が覚めると、そこが見慣れた自分の寝室ではないことに違和感を覚えた。

最もそんなもの、立ちこめる白ご飯の臭いに呆気なくかき消されてしまったのだけれど。






2日目






(1)


その光景に、ルイは目を見開いた。

「おはよう」
「……おは、よう」

ほとんど信じられないという心持ちだった。

テーブルに並べられた、白ご飯にお味噌汁。
焼き魚に、目玉焼き。

作ったのは、父。
まぎれもなく、あの父だ。


ルイは呆気にとられたまま、ほぼ無意識の内に、椅子に腰掛けた。

母の言葉を疑ったわけではない。
だが、いざ目の前にその証拠を、それもいきなり差し出されては、困惑するのも無理はないだろう。

何せあの父の、一からの手作りだ。
ルイにとっては覚えのない、離乳食以来の。


(そういえば……)


ルイは昨日の会話を思い返した。

父は自分に離乳食を作って、それから――


「いただきます」
「……いただきます」

手を合わせて、静かに呟く。

あの時チャコは、確かこう言っていた。


『スプーンを口元に持っていっても、あんたがぐずって“いやいや”するから、途方に暮れてやなぁ――』


誤解を恐れず、普通に考えたならば、それはつまり――


(私、食べさせてもらったの?)


目の前に座る父をそっと盗み見る。

静かな佇まい。
箸を持つ大きな手。
指は長く、節くれ立っていた。
綺麗な、男の人の手。


――あの手で、離乳食を?


ルイは焼き魚を咀嚼しながら、そんなことを考えた。

母やチャコが太鼓判を押すだけあって、父が作る簡素な朝食は、とても美味しかった。






(2)


思い切って、朝の読書はリビングですることにした。

ソファーに腰掛け、電子ブックの電源を入れる。

現れたページは、とにかくびっしりと文字で埋め尽くされていた。
全体的に見ても、全くないとは言わないが、挿絵は少ない。

それは、まだまだ八歳が読むに耐えるものではない。

これを広げているとき、周りの友達は異物でも見るような目をルイに向ける。
彼らにとって読書といえば、就寝前に母親が読んでくれる様な、少し長めの絵本で精一杯なのだろう。

それでもルイにとっては、これくらいがちょうど良いのだ。

背伸びしているわけではない。
物覚えが良いから、短い絵本ならば三歳の頃には既にもう一人で読んでいたという。


ルイはボタンを押して、次のページを開いた。

途端に広がる文字の羅列に、そっと視線を落とす。

けれど、今日はどうも集中できなかった。
単語を目で追っていても、風景が広がらないのだ。

滅多にないことであるが、その原因はもちろんわかりきっていた。
例えこれが三歳の頃に読んだという絵本であっても、ルイは集中できなかっただろう。


ルイはちらり、と斜め向かいに座る父を盗み見た。

パソコンのキーボードをカタカタと打ち鳴らし、時折眉間にシワを寄せる。
その姿は絵に描いた“家に仕事を持ち込む父親”の図だ。

ルイは父の仕事についてあまりよく知らない。
が、その姿から察するに、デスクワークというものもあるのだろう。

そもそもパイロットになるのだって、それなりの――むしろ一般水準以上の――頭はいる。
それを鑑みれば、当然と言えばその通りな気もしないではない。


ルイはまた目線を目の前の電子ブックに落とした。

静かな空間の中に、ただキーボードをたたく音ばかりが響く。

それが居心地良いかと聞かれれば、答えは NO だ。
まだその域には達していない。

ただ、普段父と同じ空間にいるときに感じる、溺れるような息苦しさはそこまでなかった。

緊張のためか、相変わらず読書への集中は出来ないけど。


「……ルイ」

突然、父の声が静かに落ちる。

「な、なに?」

ルイはびくりと肩をふるわせて、父を見た。

「いや……」

父はいつもの無表情のまま、目元を指でしぼるようにもみほぐしていた。

それから、ちらり、と外を見つめて――


「……散歩でもするか?」


そう言った。






 







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