君は僕の光の子
私の家族。
私は、お父さんとお母さんと私の三人家族です。
お母さんの職業は、“惑星開拓技師”。
お父さんは“パイロット”です。
お母さんは地球で働いています。
だから毎日シャトルに乗って地球に行きます。
いつか地球を人類の住める星にするのが夢だそうです。
私はお母さんが大好きです。
(1)
「ルイー?」
階下から、己を呼ぶ母の声が聞こえて、ルイはベッドから飛び起きた。
その拍子に、二つに結んで肩にかかっていた髪が、ぴょんと跳ねる。
母の様に綺麗なオレンジ色ではないけれど、それに近い薄い茶色。
やわらかくて、シャンプーのいい匂いがする。
「なにぃ?」
声をあげながら、下に降りる。
エレベーターの近くで待ち構えていた母は、ニコニコと微笑んでいた。
この優しい笑顔が、ルイはこの世の何よりも好きだった。
「あのね、さっきお父さんの会社から留守録があったんだけど――」
――お父さん。
その一言に、緩んでいた頬がさっとこわばってゆくのが、自分でもわかった。
もちろんそれを、直に見ていた母がわからないはずがない。
なのに母は何も言わず、ただいつもと同じ、少し悲しそうな顔をして。
それが、どんな言葉をかけられるよりもずっと心の奥深くまで、ぐさりと胸に突き刺さる。
「――お父さんね、休暇が取れたんだって。でも、今回は今いる星から動けないかもしれないらしいの。で、もうすぐルイも夏休みにはいるでしょう?」
「……会いに行くの?」
母は少し首をかしげた。
「ルイは、嫌?」
頭を横に振る。
滅多に会えない両親を思えば、肯定することなんて出来やしない。
母はまた優しく、微笑んだ。
それが、一ヶ月くらい前の話――
(2)
「――はぁ」
ルイは鏡の前に立って、静かにため息をついた。
うなじ辺りで二つに分けた、明るいブラウンの髪。
少し深い青色の瞳。
細い眉に、さくらんぼ色の唇……。
瞳の形も、鼻筋も、全ては母の生き写しで。
だから幾ら探したって、見つからない。
あの父と自分との、共通点。
この鏡の中にでさえ、父はいないのだ。
「――はぁ……」
再び、今度はさっきよりも深く、息を吐く。
幸せが逃げていってしまうのは、わかっているけれど……。
一週間後に控えたそれを思うと、自然とあふれ出てくるのだ。
一週間後――ルイは母やチャコと共に父に会いに行く。
その仕事柄、滅多に家に帰って来られない父、カオルに。
普通の八歳の子どもならば、今頃は久しぶりに会う父親を思い、ワクワクと心待ちにしながらベッドで眠りにつくのだろう。
その日はいつかと胸を高鳴らせ、指折り数えて当日を待つのだ。
そう、すべきなのに――
ルイが考えることと言えば、そんな、普通とはかけ離れた心配事ばかり。
上手く会話できるだろうか。
今度こそ突き放されたりはしないだろうか。
もしそんなことがあったら、どうしたらいいのだろう――
嬉しいという気持ちよりも、不安や焦りばかりが泥のように降り積もる。
そうして、足を絡み取られてしまうのだ。
父が嫌いなわけではない。
絶対、嫌いな訳じゃ、無いのに――
ルイは何度目とも知れぬため息をまたついて、そっと鏡の前から離れた。
(3)
「なぁ、ルナ。ほんまにやるんか?」
電話の前に座ったルナを、チャコが心配そうに見上げる。
それにルナは、何を今更とばかりにうなずいた。
「“今”じゃないと手遅れになる気がするの」
ぴっと前を見据えた瞳。
強い意志がこもる。
けれど微かに、不安も見えて。
だからもうそれ以上、チャコが何かを言うことはなかった。
代わりに、心に描いたとある父と娘を思う。
見た目の共通点はゼロに等しい二人。
けれどその中身、本質が実はそっくりであるということに気づいていないのは、多分当人たちだけ。
「ほんま、不器用やねんから」
互いにちゃんと、思いあっているのに。
家族なのに。
ちゃんとそれを伝えないから、こんな風になってしまうのだ。
「だね」
ルナも微笑む。
板挟みで苦労するのは、もうごめん。
黙って電話のスイッチを入れた。
その先は、遙か遠く、けれど近い。
彼は今、会える場所にいるのだから。
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