指先が震える | ナノ







きっとそうやって -2-




結局、みんなはそれから更に十分ほど遅れてやってきた。

その原因は、単純な伝達ミス。
集合時間をルナが間違えて覚えてしまったらしい。

それをそのままカオルにも伝えてしまったものだから、二人して二十分も待ちぼうけを食らったという訳だ。


ごめんなさい、と頭を下げれば、カオルはいつもの無表情で素っ気なく、構わない、とだけ言った。
少なくとも怒ってはいないみたいなので、ちょっとホッとする。


「よし、じゃあ行くぞぉー」
「どこにさ?」

ハワードが拳を突き上げ、シンゴが尋ねる。

貴重なお休みである今日一日は、主催格であるハワードにみんな全て一任していた。
こういうことに関しての根回しは、少なくとも信頼出来る男である。


ハワードは、みなの期待に応えるようにニヤリと笑ってみせた。


「まずは映画だ」










指先が震える
(君と隣でありますように)









ハワードが言うその映画。
ポスターを見る限りは何の変哲もない、普通のラブストーリーだ。


けれど、彼にとっては違う。

たったの、三分ではあるけれど。
まぎれもなくきちんとした台詞をもらえた、初めての仕事なのだ。

そう聞かされては、見ないわけにはいかない。


現在、ソリア学園の高等部に在籍する傍らで、ハワードは俳優になるための養成所にも所属している。

学生と俳優の卵の二重生活は、はた目にもすごく忙しそうだ。
それでも頑張って、ちょい役でもつかめるようになってきたのは、つい最近のこと。

下積みなんてハワードには似合わない、とみんな口々に言うけれど、本人の意思は意外にもしっかりとしているようで、愚痴一つ溢さず、お得意のパパの力も使わず、ルナなんかは内心かなり見直していた。
誰も口にはしないけど、それはみんな同じだと思う。


ハワード曰く、僕の生涯の中でも特に大きなこの特別な瞬間を、みんなで分かち合いたい、とのこと。

少々クサイのは、養成所で様々な役のシチュエーションをこなしてきたせいか。
それでも、嬉しいことに変わりはなかった。


他愛もない雑談を交わしながら、チケットを買いに行ったハワードを待つ。

初日ということもあり、映画館はそれなりに混雑していた。
その上、七人と一匹という大所帯だ。

しばらくして帰ってきたハワードはすまなさそうに、チケットを八枚差し出した。
どうやら二人ほど、みんなから離れて端の方に行かなくてはならないらしい。


「じゃあ、俺が行こう」


カオルがすぐさまそう申し出る。
ルナはらしいな、と苦笑した。

はしっこで映画には目もくれずに眠る姿が容易に想像できて、何もないのに笑みがこぼれる。
もしかしたら、ハワードが出てくるシーンくらいは薄目を開けて見るのかもしれないけど。


さて、そうなると端席行きのチケットは残り一つである。

ハワードはチケットの座席番号を隠すように持ち、目の前で広げた。


「じゃ、恨みっこなしな」

みんなもうなずき、その中の一枚を抜いていく。

「じゃあ私はこれね……」

何故だか、指先が震えていた。

「おし、一斉に見ろ」

言われるがまま、裏返して座席番号を見る。
何かを期待するかのような、心持ち。
けれど番号を確認した後に広がったのは……


「……私か」


それを引いたのは、メノリだった。







お題提供堕天使


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