四天宝寺 | ナノ


 隣の席の白石くん

わたしの隣の席の白石くんは、物凄くイケメンである。生まれてこの方、これほどまでのイケメンをみたことがないと言えるレベルにはイケメン。まさに会いに行けるアイドル。しかも頭も良くて、運動もできるとくれば女の子が放っておくわけがない。そう、放っておくわけがないはずやのに。


「名前、なあ名前、こっちむいてえや」

「…………」


どうして彼は1人なんだろうか。そして、どうして彼はわたしに向かってここまで眩しい笑顔を向けているのだろうか。そんでもってどうして彼はわたしを下の名前で呼んでいるのか。何一つ理解出来ない。


「あ、あの白石くん?」

「なんやなんや、他人行儀やなー。俺のことは蔵ノ介っちゅーてくれてええんやで。むしろうそう呼んでくれな俺悲しいて死んでまうわ」

「……言っとくけどなんちゃおもんないで自分」

「おもんないとかおもろいとかそういう次元やないねん!俺と名前の未来の話やねん!」

「そんな話した記憶一切ないわあほう!」


名前が冷たい!なんてどこぞのヒロインのように悲しんでいる彼は、きっと部活中にボールがクリーンヒットしてしまったに違いない。どう考えても頭がおかしい。というか隣になって宜しく、なんて会話をしたときはこんな変な男やなかったはずやのに、一体どこから狂ってしまったんや。なんてまさに頭を抱える、という言葉を現実に実行しているわたしに、更なる追い打ちがかかる。


「おい白石、口説くならもうちょいまともに口説けやー」

「さすがの俺らもドン引きやわー」

「そうやで、白石くん。名前はそんな簡単に落ちる女やないで!」


やんややんやと騒いでいる3年2組の同士達。頭おかしい、みんな揃って頭おかしい。なんでなん。おかしいやん。こんな絶世のイケメンが超絶普通なわたしにこないなこというてる時点でおかしいやん。なんでそないにあたかもこれが日常の風景ですてなことになってんの?なんなん?わたしだけタイムスリップでもしてしもたん?もしくはifの世界なん?あかん、ほんまに頭痛なってきた。

もうこの教室から全力疾走で逃げたくなったあたりで、ちらりと斜め後ろを振り返ればばっちりと噛み合う視線。他のクラスメイトとは少し違うその視線に、一筋の救いを見出したような気がしたというのに、速攻で逸らされる視線。つらい、現実はなんて過酷なんや。


「こら名前、隣にこんな王子様がおるいうのに謙也のほう見るなんて許さへんで」

「自分で自分のこと王子様いうとかうすら寒いわ」

「せやかて名前が俺のお姫様なんやからしょうがないやん?」

「…………」


ぞぞぞぞぞぞ、まさにこれがチキン肌。体全体がぶつぶつである。蕁麻疹も失神するレベル。あ、湿疹にかけたわけちゃうからな。てそんなんどうでもええねん。問題は隣の男が変な扉を開けてしまったっちゅうことやねん。

だがしかし、いつまでもこいつのペースにさせるわけにはいかない。わたしは平和な日常を送りたいのである。こんなわけのわからないことに巻き込まれるわけにはいかない。必死にそう思っているのに、なんということか。関西人であることを心の底から後悔する羽目になるとは。


「それにしても今日はええ天気やんなあ」

「朝から大雨ですけど」

「校長の話もいつも通りのうけっぷりやし」

「今日珍しく滑ってたやん」

「名前、いつでも嫁に来てええんやで」

「死に晒せ」


ああ、突っ込まずにいられないこの宿命。誰やわたしを関西人にしたんわ。おとんかおかんか、ご先祖様か。勘弁してえやほんま。

盛大なため息を吐きつつ目線だけで隣をみれば、それはそれはにこやかに笑っている白石蔵ノ介の姿。黙っていれば本当にイケメン。きらきら輝いていて、悔しいけれど格好いい。それがどうしてこんなことになってしまったのか。


「困ってる?」

「みたら分かるやろ」

「せやけど、俺ほんまに名前のこと好きやねん」

「からかわんとってや、意地悪いで」

「からかってない、本気やで」


なんと返せば彼はこの茶番をやめてくれるのだろうか。そんな思いを込めてさらに追加でため息を吐いたその瞬間、突如としてがらりと変わる雰囲気。まさか、そんな思いで顔ごと隣を向けば、笑わずにしっかりとこちらを見据える白石と目があった。先程までの空気はどこへ行った。あんた、頭おかしかったんとちゃうんか。


「白石、なんやのほんま、意味が、わからへんねんけど」

「お前が好きや」

「っ、いや、せやからそれの意味が、」

「お前が好きなんや」

「せ、せやから!!好きになられる理由が、」

「理由?それならこれで十分やろ」

「!?」


突然伸びてくる白石の包帯を巻いた左手。しばかれる…!そんなことあるわけがないのに、体は正直だ。わたしの目は前を見ることを放棄し、完全に瞼に覆われてしまう。

そして、次の瞬間わたしに襲いかかったのは、つい先ほど感じたばかりのぞわりとしたチキン肌だった。


「このシャンプーの香り、たまらへん。ん〜絶頂!」

「死に晒せやどあほう!!!」


こうして、わたしの中の白石蔵ノ介は、イケメンなクラスメイトから、それはそれは変人かつ変態という残念な位置づけに降格したのであった。


(14.02.01 虹子)


prevnext

back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -