ナギ | ナノ


動き始めたデスティニー


「―――で、今からどうするの?」


ナギくんにマフラーを渡し、今日の課題は終わった!と思ったのも束の間、何故かさらに先を問うてくるナギくん。


「え、今から、ですか?」
「だから、そのワンピースのお礼に、今日は付き合ってくれるんでしょ?」
「………え」


お礼に、付き合う?一体なんのことだ。わたしの頭には【?】マークがぽんぽんと生まれては舞っていく。そんなわたしの考えを見透かしたのか、先程までの楽しそうな表情とは一転、一気にげんなりした顔になるナギくん。ああ、アイドルがそんなお顔をしてはいけません…!


「もしかして、名前はこのプレゼントを渡すためだけに来たつもりだったわけ?」
「え、いや、てっきり、そうだと」
「…はあ、おかしいと思ったんだ。僕は今日付き合ってもらうのが、その名前のいう“ プレゼント”っていうつもりだったのに、こうやってマフラー渡されたから」
「……!ま、まさかあの文面は、プレゼントを渡す待ち合わせ時刻だったわけじゃなく、今日そのものがお礼、だったということですか」
「今頃気づいたわけ?本当名前の頭の中って空っぽなんだね!」
「ひ、酷い!」


日本語とはなんと難しいのだろうか、今この場でこんなことを実感するとは思わなかった。きっとどちらが悪い、ということもないのだろうけれど、とりあえずは気分を害してしまったことを謝らなければ、そう思いナギくんに向き直る。


「あ、あの、」
「で?今から僕に付き合ってくれるわけ?」
「…へ?」
「だーかーらー!あんたのその頭はお飾り?!もう帰るのか、それとも僕に付き合ってくれるのか、って聞いてるんだけど!」
「つ、付き合います!!」


そういったときのナギくんの満足そうなお顔といったら。






―――そんなこんなで、何故か今わたしは自分の部屋にいるわけなのですが…。


「あ、あの、どうしてわたしの家なんでしょうか…」
「一回シャイニング事務所の寮って入って見たかったんだよねー」
「そ、そうですか…」


今からどこに行く、という話になった際に、何故かナギくんが指定したのは、わたしの家、もといシャイニング事務所の寮だった。レイジング・エンターテイメント所属のナギくんをこうも堂々と寮にいれてもいいのかは分からないけれど、禁止事項に他事務所の人間を入れるな、とは書いていなかったからきっといいのだろう、と腹を括ったのだけれど。


「へえ〜、名前の家にしては綺麗にしてるんじゃない?」


なんて先ほどからナギくんはわたしの部屋をいったりきたり。いくらわたしがOKしたからといって、そんなに見られると恥ずかしい以外の何者でもないわけで、少し勘弁していただきたい。


「あ、あの、ナギくん、あんまり見られると恥ずかしいんですが」
「いいじゃん、減るもんじゃないし〜」
「そういう問題じゃなくて、その、わたしも女の子なのでそんなに見られるのはちょっと、」
「…ふうん?」


なんて含ませた反応をしながら、ナギくんの足がぴたりと止まる。見るのをやめてくれたのかと安心しつつ、キッチンから2人分の紅茶をお盆にいれてテーブルへと運べば、見えるナギくんの手元。


「え、それ」
「……」


その手に握られているのは、白い紙。五線譜のひかれたそれは、わたしが今日の夜中まで試行錯誤していた楽譜の一部。カッ!と一気に顔に熱が集まるのが分かる。


「ナギくん!そ、それはダメです!」
「これ、名前が書いたの?」
「そ、うですけど、でもまだ途中で、というか、ダメですってば!」


慌てて手を伸ばすけれど、ほとんど身長が変わらないナギくんが腕を上にあげてしまえば、やすやすと取り返すことはかなわない。それどころか、焦れば焦るほどうまく狙いを定めることができずに、ナギくんに楽譜を読まれてしまう始末。


「ナギくん、返してくださっ、」
「これ、ST☆RISHの曲にするの?」
「そ、それは、まだ決まって」
「…ふうん」
「だから、だめ、――っ、ひゃっあ!」
「ちょ!」


その瞬間、完全にバランスを崩してしまうわたしの体。まるでスローモーションのように倒れこみ、来る痛みに目をつむれば、何故かいつまでたっても痛みは訪れない。それどころか、何かに暖かく包まれているような妙な感触に、ゆっくりと目をあけて息を呑む。


「…ったあ…本当名前って馬鹿なんじゃないの」
「な、ナギくん、」
「どこかぶつけたり、してないよね」
「し、してません…っ」
「…なに、変な顔してんの?」
「だ、だってっ…!」

――どうして、あなたがわたしの下にいるんですか。


転んだはずのわたしは、何故かナギくんの体に抱きとめられていた。冷たい床に寝転がった状態のナギくんは、片手でわたしを抱きとめて、呆れたように笑っている。


「どうしてって、名前が怪我するのを指くわえてみてられないでしょ。僕って優しいよね〜」


だなんて。


「わ、わたしよりナギくんのほうが怪我したら困るのに…!」
「怪我するのにどっちが困るなんてないと思うけど?よーいしょっと」
「ど、どこか痛かったり…!」
「僕は名前と違って鍛えてるからね、こんなのどうってことないんだよ」


そう言って目を細めて笑うナギくんに、心がとくんと跳ねる。とくとく、と小さく、でも確かに揺れる鼓動。まさかこんな年下の男の子にときめいてしまうなんて、あり得ない。これがアイドル効果なのか、なんて馬鹿げたことを考えているたわたしには、ナギくんが真面目な顔でわたしの書いた楽譜を再度見つめていたことなど知る由もなかったのである。



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