ナギ | ナノ


鳴り響くビッグベン


ST☆RISHとHE★VENSが揃うとあって、その日のソングステーションの観客席は多くの女の子たちで溢れかえっていた。ST☆RISH、HE★VENS、それぞれの応援グッズを持っている方たちもいて、ああ、本当に人気なんだなと実感する。

番組の邪魔をしないように、とST☆RISHが歌う数分前に春歌ちゃんとわたしは収録スタジオの端っこでスタンバイしていたのだけれど、ふと機材の隙間から見えた色に、心臓がどきりと高鳴った。


「っ」


ST☆RISHの隣、並んで座っているナギくんの首元に見覚えのあるマフラー。それは間違いなくあの日わたしがプレゼントしたもので。


「どうかしましたか?」
「!あ、なんでも、ないんです」
「?」
「本当に、なんでもないんですよ…!」
「それなら、いいんですが…」


不思議そうな春歌ちゃんに、必死になんでもないと訴える。その反面、わたしの心は完全に困惑していた。当たり前だけれど、まさかナギくんがあのマフラーを巻いてTVに出るなんて夢にも思っていなかったのだ。どきどきと加速した心臓は、静まるところをしらない。そして、そのまま始まってしまうST☆RISHの出番。


「皆さん、頑張ってください」
「っ、…」


しっかりと彼らを見つめ応援している春歌ちゃんの隣で、わたしは必死に手を組み、祈るような気持ちで彼らを見つめることしか出来なかったのである。











結論から言えば、ST☆RISHもHE★VENSも、どちらも大成功のうちにソングステーションは幕を閉じた。観客席の女の子たちの中には涙している方もいて、本当にどちらも素晴らしかったことを物語っているようだった。もちろん、わたしも春歌ちゃんも何も言えないくらい感動していたし、ST☆RISHの皆さんも真剣な表情でHE★VENSのステージを見つめていた。


――そして。


「僕たちはもちろんだけど、ST☆RISHもまあまあ頑張ってたんじゃないの?」
「子どもがえっらそーに!」
「はあ?子ども?誰に向かっていってるわけ?チビ!」
「お前だってほとんど変わらねえだろうが!」
「4歳も年下の僕とほとんど同じとか恥ずかしくないわけ?」
「てんめええ!」
「翔ちゃんもナギくんもどっちも小さくて可愛いです!」
「ちょ、那月それダメだって…!」


ソングステーションが終わってすぐ、ST☆RISHの楽屋にやってきたHE★VENSの皆さん。ナギくんによれば、もう少しすれば視聴率、そして放送時にのみインターネットから投票出来るファンポイントが集計できるのだと言う。

大切な結果待ちだというのに、先程から楽屋は大騒ぎ。ナギくんと翔くんが喧嘩したり、それを止めようとする四ノ宮さんをさらに一十木くんが止めてみたり、春歌ちゃんに手を出そうとする鳳さんにセシルさんが猫のように威嚇して、一ノ瀬さんと聖川さんが静かに怒ってみたり、その後ろで皇さんと神宮寺さんが案外打ち解けていたり。なんやかんやと仲良くしているように見えて、少しホッとしてしまう。


「名前!」
「!な、ナギくん」
「名前も僕たちのステージ、見てくれたんでしょ?」


ほとんど身長の変わらないナギくんが、にこにこと目の前で笑っている。本来ならばわたしや春歌ちゃんの意思のないところで重要なことを決めようとしていることを責めなければいけないのかもしれないけれど、どうしてもその笑顔を前にそんなことできそうになかった。頭の中に浮かぶのは、あの日わたしの家でわたしのことを助けてくれたナギくんの姿。


「あ、名前赤くなった、いやらし〜」
「ち、違っ!」
「何ー?僕の色気に耐えられなくなった?」
「なっ、え、ちょ、」
「いいよ、なんならもっと色気のある僕、見せてあげようか?」
「えっ、」
「名前っ」
「っ!」


はあ、と耳元で息を吐かれて、ぞくりとしたものが背中に走ったのが分かる。信じられない。まさか5歳以上年下の男の子にこんなことをされるなんて。慌てて距離を取ろうとするも、いつの間にかがっちりと掴まれている腕がそうそう外れるわけもなく、再度ナギくんの顔が近づいてくる。


「!!」
「―――はっ、お前みたいなちんちくりんのどこに色気があるっていうんだよ」


慌てて逆側に顔を背けたわたしの耳に飛び込んだのは、聴き慣れた声。ゆっくりと目を開ければ、いつの間にかナギくんとわたしの間に割り込むように体をねじ込んでいる翔くんの姿。まるでヒーローのように現れた彼に、安堵の息を漏らす。けれど、わたしとは正反対に一気に不機嫌を顔ににじませたナギくん。そして彼は、まるで先ほどのお返しだと言わんばかりに再度口を開く。


「いちいちうるさいよ、チビ!お前にいってない!」
「年上に向かってお前ってなんだよ!」
「年上なら年上らしく年下を可愛がってよね!」
「こんなときだけ年下面するんじゃねえよ!」
「はあ?!先に年上面したのはそっちだろ!」


もうこうなったら止めるのは野暮だ、自分にそう言い訳してそっとわたしはその場を離れることにした。少し熱くなった顔を冷たい両手で冷ましながら、遠巻きに部屋の中を眺める。そしてその雰囲気に思わず頬が緩んだ。なんだかんだと本当に仲がいい。このまま全てが終わってしまえば、そう思った瞬間だった。


「っ」


部屋の中に響き渡るノック音。一気に静かになる部屋の中。まるで何かを告げる鐘の音のように、その時が、やってきた。



(14.02.09 虹子)



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