大騒ぎがデフォの三年組


「あっつい…」


スコアボードをつけながら小さく呟いた声は、コート内を慌ただしく走り回っている選手たちの声にばっちりとかき消されてしまう。新緑の季節。朝晩はまだ少し肌寒いけれど、昼間の暑さは夏に匹敵する、というか初夏なだけあって暑い。特に空調のついてない今の時期の体育館は地獄だ。いくら窓を開けているといっても初夏の暑さとプレイヤーたちの熱気だけでそこはもうどこの砂漠だといわんばかり。気休めに小さいアイスノンを首に巻いてみたり団扇で仰いでみたりするけれど、そのどれもがこの暑さへの突破口とはなり得ていなかった。

首にさげているストップウォッチが時間を告げて、ぴぴっと鳴ったのを確認し、隣にぶら下がっているホイッスルを口に含む。そして思い切り息を吐き出した。




「あつい」


部活終わり、ミーティングを済ませさあ着替えに行くかという時、ついつい口を出たのは部活中何度もこぼしてしまった言葉。部活中に比べればまったくもって涼しいけれど、それでもまだ身体は火照っているし、外の気温だって優しくはない。特に誰にいったつもりでもなくただの独り言だったのだけれど、すぐ近くにいたらしい彼の耳には聞こえたらしく、ちらりとこちらを向いた視線に気がついた。


「体調悪いのか?」
「ううん、暑いだけ。みんな元気すぎなんだよ、体力のないわたしはへろへろです」
「まあ男と女だからな」
「そういうこと」


少し心配そうにこちらを見ている岩ちゃんへ、本当に暑いだけだよ、と念を押して、今度こそ更衣室の方を向けば、わたしでも岩ちゃんでもない声が後ろから飛んでくる。


「ふったりともー!!!」

「?!」
「ぅわああ!」


その瞬間、パシャっ!と飛んできたのは水のしずく。びしょびしょになるほどではないけれど、全然濡れていないわけでもない程度の水が突然飛んできた。及川もというざ川の声とともに、だ。


「おお!俺なんてナイスなコントロール!」
「見事に命中したな」
「岩泉びしょびしょじゃん、受けるー」


わたしも岩ちゃんも状況を理解しきれずぽかんとしていたのだけれど、目の前で水てっぽう片手に笑っている及川、そしてその少し後ろに同じく楽しそうに笑っているまっつんとマッキーの姿をみつけ、粗方のことを理解する。どうやらわたしたち2人は的にされたらしい。


「…おいクソ川てめえ…」


ぽたぽたと髪から滴る雫に気を取られていれば、まるでゴゴゴゴという効果音でも沸き立ちそうなほどの殺気を含んだ岩ちゃんの声が耳に聞こえてハッとする。あわてて隣の彼をみれば、なるほど、これはびしょ濡れである。先ほどの言葉を訂正しよう。きっと的にされたのは岩ちゃんだ。わたしはおまけに間違いない。


「あはははは!岩ちゃん!水も滴るいい男だね!」
「…よし、歯ぁ食いしばれ…!!」
「ちょ、まっ、ぎゃー!頭突きはやめて!!!」


あっちでバタバタこっちでバタバタ。いつもこうなるんだからやめておけばいいのにどうしてそうしないのか。そんな思いを込めて逃げながらも水てっぽう片手にいまだ岩ちゃんを狙っている及川をみながら苦笑していれば、頭にかけられる白いタオル。


「ほら、さっさと拭いとけ、風邪ひく」
「え、あ、まっつん、ありがとう」
「松川やさしー。え、なんですか、恋の始まりですか?」
「マッキーうざい」
「ひどーい、なんなら俺のタオルも貸してやるけど?」
「マッキーのタオルとか使ったら妊娠しそうでやだ」
「…そうか、お前そういう関係を望んでたのか、気づいてやれなくてごめん」
「ひっ!セクハラ!セクハラ!!」
「花巻、岩泉がすごい顔でこっちみてる」
「冗談デース」


まっつんが貸してくれたタオルで濡れた部分を拭きながら、小さく笑う。毎度毎度騒がしい彼らだけれど、なんだかんだ一緒にいるのだからわたしも大概だな、なんて。そして拭き終えてタオルは洗濯してから返すね、とまっつんに言おうとした瞬間。


「名前ちゃん!助けて!!」
「え、ちょ、ストップ、ストーっプ!」
「止まりやがれクソ川ー!!」
「あ」
「あ」
「ーーーーー!!!!」


バッシャーン!という音とともにまるで滝のような水の量。先ほどの水滴の比などではない。それもそうだろう、今度の水は水てっぽうなどではなく、バケツにはいった大量の水だったのだから。


「名前、ちゃん?」


目の前には引きつった笑みを浮かべた、まったく濡れていない及川の姿。そしてその一歩後ろには空っぽのバケツ片手になんとも言えない顔をした岩ちゃん。さらにその後ろにはお腹を抱えて笑っているマッキーとまっつん。


「及川」
「は、はい!」
「岩ちゃん、マッキー、まっつん!!!」
「!」
「はーい?」
「ん?」
「今すぐそこに並びなさい。お望み通り、ぶっかけてあげるから…!!!」


近くにあった水道につながれたホースを片手に、蛇口をこれでもかとひねる。一気に地面を濡らし始めた青い蛇をみて、一気に顔を引きつらす4人。


「ま、まって!ごめん!ごめんって!」
「わ、悪かった!」
「ちょ、俺関係なくない?!」
「右に同じく!」
「うるさーい!!みんな同罪だー!!!」


ばっしゃーん!!そして周囲は阿鼻叫喚。騒がしいからと様子をみにきた金田一と国見ちゃん、渡と矢巾まで巻き込んで、ついには水かけ大会になってしまったのであった。


そうしてなぜか次の日わたしだけが風邪をひいたのには、本当に納得がいかないけどな!!!




(14.09.22 虹子)
 

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