クラスメートの花巻くん


「ふぁあ…」


授業中隠すこともなく大きな欠伸を一つして、涙目になった目をゆるりと擦る。昨日は久しぶりに夜ふかしをしてしまい、自分でもわかるほどに朝から頭がうまく回らない。それでもあのドラマをあんなところで終わりにするなんて出来なかった!と自分に言い訳をして、教壇のむこうで意味不明な単語をたくさん生み出している先生をぼーっと眺める。腕の下にあるノートは残念ながらほとんど真っ白だ。


「…………」


あ、これはやばい。本格的に瞼が下がってきて、このままでは爆睡コースに違いない。1年生の後輩である国見ちゃんに散々授業中に寝るのをやめなさいとお説教している身としてはこんなところで寝るわけにいかないというのに。ああ、でも、もう無理。ゆっくりと狭まっていく視界と、力の抜けていく体に抵抗することも忘れて身を任せそうになった瞬間――、


「名前」


後ろからまるでこそこそ話をするかのように呼びかけられた。ほとんど机につきそうになっていたおでこをどうにかこうにか起こしてそっと後ろを向けば、クラスメイト兼部活仲間のマッキーがにやにやした顔でこちらを見ている。


「なに、マッキー…」
「寝たら国見にいいつけるぞ」
「!……見逃してよ、眠いんだって」
「優等生の苗字さんが珍しい」
「その呼び方やめて。…昨日どうしてもみたいドラマが…ふああ」


そんなやりとりをしている間も睡魔というものはわたしを深い深い眠りの森につれていこうとしてくれているようで、あくびが止まらない。もう国見ちゃんに言いつけられることもよしとして寝てしまおう、先生ごめん、そう思っていたのに、突然下から突き上げた衝撃にびくんと身体が跳ねた。ギギギという音がつきそうなほどのぎこちなさで後ろを向けば、それはそれは恐ろしい程に無表情のマッキーと目があった。


「寝るな」
「ま、マッキーそんな真面目くんじゃないでしょ?!なんなの一体」
「名前がつっぷしたら俺が違うことしてるの見えちゃうデショ」
「…?!」


ちらりとみたマッキーの机の上にはもちろん教科書も開かれているけれど堂々とその上に置かれているのはどう見ても漫画だ。最近流行りのバスケ漫画。あんたバレー部だろと突っ込んでやりたい。


「最低」
「授業中寝ようとする名前に言われたくないね」
「絶対寝てやる」
「絶対起こしてやる」


と、謎の攻防が始まったあたりでうまいこと鳴り響くチャイム。はっとして顔をあげれば知らぬ間に黒板いっぱいにかかれているチョークの跡。しまった!とあわててノートに書き写し始めれば後ろからくくっという低い笑い声が聞こえてきてなんとも悔しい気持ちになった。


「マッキー、覚えてなさいよ」
「むしろ起こしてやったことを感謝して欲しいんだけど」
「自分のためだったくせに!」
「まあね」
「絶対感謝してなんかやらない」
「感謝ついでにもいっこお願い」
「いや、だから感謝なんてしな――、」


「ノート、みせて」


にーっこり。普段無表情のマッキーからは考えられないほどの笑顔。一瞬にして寒気が体中を駆け巡り、結局わたしはマッキーへとノートを貸すことになったのである。なんて理不尽!



(14.06.25 虹子)
マッキーには敵わない系女子。
 

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